女性労働に関する 専門家判例コラム

 

第8回 税務署職員が税務調査先でストーカー行為  君嶋 護男

 

 前回のコラムで、カスハラ防止法を取り上げ、カスハラに該当すると思われる裁判事例を紹介したところです。
 カスハラとは、従業員が顧客等労使関係にない者から受ける暴言、暴行等であって、これについて、被害を受けた従業員が事業主に対して、どのような責任を追及できるかが問題となることは、前回指摘したところです。 カスタマーとはいえませんが、労使関係にない者からのハラスメントに苦しむ労働者に関する裁判事例をもう1つご紹介します。それは、税務署職員による税務調査対象企業の女性従業員に対するハラスメント、ストーカー行為です(東京地裁平成29年12月13日判決)。
 この事件は、税務調査のためにA社を訪問した税務署員(原告)が女性社員Mの応対を受けて(恐らくはMに対し好意を抱いたことから)、その後、度々Mの携帯電話に連絡をしたり、M宛てにお守りを郵送したり、突然A社を訪問するなどして上司から厳重注意を受けたものです。原告とMとの間では、税務調査とは無関係な話題や、雑談としても明らかに不適当なMのプライバシーに関わる話題が含まれていたとのことですので、判決には具体的に記載されていないものの、性的なことも話題になった可能性も考えられます。Mは原告の行為について警察に相談したことから、原告は警察から厳重注意を受け、一旦は職場に謝罪したものの、Mが誘って来たなどとMや会社に責任を転嫁するような言動をしたため、反省の色が見えないとして懲戒免職処分及び退職手当全額不支給処分を受けました。

 
 

裏の顔

 原告は、本件懲戒免職処分及び退職手当全額不支給処分の取消しを求めましたが、判決では、税務署職員が質問検査権の行使によって得られた情報を私的に利用することは厳に禁じられるところ、原告は税務調査の記録等からMの自宅の住所や携帯番号を把握し、Mとの私的な関係を求めて、税務調査終了後も複数回にわたって職務とは無関係な電話を架けたとの事実を認定し、このことが信用失墜行為、職務専念義務違反等に当たる上、真摯に反省している姿勢も窺われないとして、懲戒免職処分等を適法と認めました。 税務調査を受ける会社の担当者にとって、税務署職員はカスタマーとはいえないにしても、立場上、応対を拒否することが困難な相手であることからすれば、通常のカスタマー以上に怖い存在といえますし、本件の内容からすると、明示の要求はなくても、一種の対価型セクハラに該当する事件ともいえます。

 原告は、本件当時58歳程度で、定年まで約2年であったことから、本件懲戒免職処分及び退職金不支給処分によって、その間の給与はもとより、退職金(40年近くの勤続年数からすれば恐らくは2000万円以上)を全く受給できなくなったわけで、Mに対する不埒な行為が非常に高くついたといえます。

自滅

 

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