女性労働に関する 専門家判例コラム
第4回 労災保険障害等級における「外貌の醜状」 君嶋 護男
現在の労働関係法規の中で、妊産婦を除いて女性が男性と異なる取扱いを受けているのは、坑内での鉱物の採掘など非常に限定されたものとなっています。以前は、女性の就業がかなり広く制限されており、それが男女雇用機会均等法の施行に合わせた労働基準法改正以降、順次撤廃され、今日では労働関係法規において、妊産婦を除いては性別を理由とする異なる取扱いはほとんどなくなっているところです。しかしながら、男女雇用機会均等法施行後においても相当長期間にわたって男女で異なる扱いがされていたものがありました。それは労災保険法上の障害等級の扱いです。
労働災害により負傷を負い、それによって障害が遺ってそれ以上治療が期待できない状態になった場合、これを「治癒」として障害等級が決定されることとなり、その障害等級に応じた障害補償給付が支給されることとされています(労災保険法15条)。障害等級は、1級(最重度)から14級(最軽度)まで14段階に分かれており、その中に「外貌の醜状」が含まれています。従来は「外貌に著しい醜状を遺すもの」が、女性は7級、男性は12級、「外貌に醜状を遺すもの」が、女性は12級、男性は14級に位置付けられていました。
このことが男女差別であって、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反するとして、処分の取消しを求めた事件があります(園部労基署長障害補償給付請求事件)。この事件は、金属の溶融物を身体に浴びて、顔面から上半身にかけて著しい醜状が遺ったとして障害等級12級の決定を受けた男性が、その決定の取消しを求めたものです。
判決では、障害等級表策定については高度の専門技術的考察が必要であるから厚生労働大臣の裁量は比較的広汎であり、外貌の醜状により受ける影響について、男女間に事実的・実質的差異がないとはいえないとして、障害等級の男女差についての根拠を必ずしも否定しない判断を示しながら、著しい外貌の醜状障害について5級の差があり、女性であれば1年につき給与基礎日額の131日分の年金が生涯支給されるのに対し、男性では156日分の一時金しか支給されないのは著しい不合理であり、憲法14条1項に違反するとして、処分を取り消しました(京都地裁平成22年5月27日判決)。
この裁判において、被告である国は、女性は接客等の業務に従事する者が多いこと、化粧品の売上げを見ても女性の方が外貌を重視していることなどを挙げて、外貌の醜状に関する障害等級の男女差の正当性を主張しましたが、認められませんでした。国の上記主張が合理性を有するためには、労働市場において、女性の外貌の醜状が男性のそれより重大な価値の低下をもたらすこと、言い換えれば、女性の外貌が男性のそれより高い商品価値を有することの合理性を証明しなければならないはずですが、国はそれをしませんでした(さすがにそれはできなかったのでしょう)。
現在でも、働く分野によっては、外貌によって有利・不利が分かれることがあり、特に女性についてその傾向が見られることが感じられる場面が見られますが、少なくとも法制度上、外貌について男女差を設けることが許されないことは、現在においては社会通念として定着しているものと思われます。このことを前提とすれば、外貌の醜状についての障害等級において男女差を設けることに合理性が認められないことは当然といえましょう。
上記判決は控訴されることなく確定し、同判決を踏まえて、平成23年に、労災保険の障害等級は、男女同一(「著しい醜状」については7級、「醜状」については12級)に変更されました。
判例データベース
園部労基署長(障害等級男女差)事件) 「参考判例」
京都地裁 − 平成20年(行ウ)第39号