女性労働に関する 専門家判例コラム

 

第12回 同一価値労働同一賃金について  君嶋 護男

 

 安倍内閣時代、目玉政策の一つとして「女性の活躍推進」が掲げられ、この政策を実現するために、平成27年9月にいわゆる女性活躍推進法が施行されました。また、同じく目玉政策であり、平成30年6月に成立した働き方改革に関する関連法案は、関係する法律も多く、その内容も多岐にわたっていますが、その中心にあるのが、いわゆる非正規労働者と正規労働者との間の格差の是正「同一労働同一賃金」の実現であったといえます。
 同一労働に対して同一賃金を支払うことは当然のことといえますが、これが法律上明記されているのは労働基準法4条(賃金について女性であることを理由とする差別的取扱いの禁止)、短時間・有期雇用労働法8条(通常の労働者と比較して不合理と認められる相違の禁止)のみとなっています。同一労働同一賃金については、これまで非常に多くの裁判が行われ、そうした裁判事例を集約した形で、労働契約法20条に、通常の労働者と比較した不合理な相違の禁止規定が設けられ、働き方改革に関する一連の法改正の中で、短時間・有期雇用労働法8条に移され、今日に至っているところです。

女性活躍推進



 ところで、同一労働同一賃金と類似したものとして「同一価値労働同一賃金」があります。現在では、両者は余り区別されずに使われている感がありますが、かつては、同一価値労働同一賃金は、男性に対する女性の賃金差別を解消ないし縮小するためのツールとして強く主張されていました。すなわち、世の中にはいわゆる「男性向き」「女性向き」とされる仕事があり、一般的に男性向きとされる仕事の方が賃金が高い傾向があることから、同一労働を前提とすると男女の賃金格差を是正することが困難であるとして生み出された知恵といえます。ただ、この意味での「同一価値労働同一賃金」を実現するためには、異なる仕事同士の価値を比較するという困難な課題を解決しなければなりません。
 異なる仕事の価値を図るには、詳細な職務分析を行い、その職務を身につけるためにどの程度の時間、労力を要するか、その職務の責任、精神的負担等を測ることとなりますが、賃金は、職務分析によってのみ測られるものではなく、職務分析上は価値が低いとされても、世の中の需給バランス等によって価値が変化することもありますから、事はそう簡単ではありません。
 この困難な問題をいとも簡単に「解決」した裁判例があります(Kガス賃金差別事件 京都地裁平成13年9月20日判決)。この事件は、ガス配管工事等を業とする会社(被告)に勤務する女性係長(原告)が、基本給及び賞与について同期男性Aと比較して不当な賃金格差があり、これは女性を理由とする差別であって、憲法、労働基準法に違反するのみならず、国際条約にも違反するとして、差額賃金相当額1393万円余及び慰謝料500万円などを要求したものです。

同一賃金

 判決では、Aと原告の賃金差額の存在を認定した上で、原告はいわゆる内勤、Aはいわゆる現場業務と、その職務内容は異なるものの、両者の各職務の困難さにつき、知識・技能、責任、精神的負担と疲労度などを検討すると、各職務の価値に格段の差はないとして、約670万円の慰謝料等を認めました。被告は、男性には一定の職務経験後試験に合格すれば監督職になれることとされ、Aはこの方法で監督職になったのに対し、女性は監督職への途が閉ざされていたようですから、この点において明らかな男女差別があったと思われます。それならば、この点を捉えて男女差別を認定し、差額賃金や慰謝料を算定すれば良いところ、何の根拠も示さず、原告とAとの職務には格段の差はないというのでは、到底真っ当な判決とは言い難いといえます。
 当時、男女間の賃金差別解消の方法として「同一価値労働同一賃金」の実現を強く求める人々が多かったことからすると、そうした人々からすれば、本来「待ちに待った判決」であるはずのところ、さっぱり盛り上がらなかったのは、裁判官の思い込みによる説得力のない判決によるものと思われます。

判例データベース

Kガス事件「参考判例」
事件番号:京都地裁 − 平成10年(ワ)第1092号


 

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