女性労働に関する 専門家判例コラム
第16回 職場結婚を理由に退職勧奨、解雇
君嶋 護男
女性の結婚退職制、あるいは結婚を理由とする退職の強要の違法性が裁判で争われるようになってから約60年、その違法性が最高裁判決で確定してから45年を経過しました。現在では、男女雇用機会均等法により、結婚を理由とする解雇は明文で禁止されていますが(9条2項)、同法が施行されてから約20年を経過した時点でも、残念ながら結婚を理由とする退職強要が行われています。
本事件は、各種印刷等を業とするX社(被告)にデザイナーとして入社した女性A(原告)が、営業社員と対立した後、業績悪化を理由に退職を勧奨されたものです(第一次退職勧奨)。Aはその直後に同僚B(原告)と職場結婚をし、その後X社はAに対し、パート勤務に代わるよう求めましたが話合いつかず、Aは抑うつ状態と診断されたことから、社長の発言によってうつ病に罹患したとして、X社に対し、発言の撤回、謝罪及び治療費の請求をしました。
X社は、その1年後に、A及びB(Aら)の職場であるデザイン室を閉鎖し、Aらに対し退職を強く求め(第二次退職勧奨)、Aらに対し解雇通知書を送付し、解雇予告手当及び退職金を一方的に振り込みました。これに対しAらは、雇用契約上の権利を有する地位の保全及び賃金の仮払いを求めて仮処分を申し立てて認容され職場復帰しましたが、賞与が減額されたため、その減額分、未払の賃金及び賞与並びに慰謝料の支払いを請求しました。

判決(大阪地裁 平成18年7月27日)では、第一次退職勧奨については、退職強要とまではいえないとしましたが、第二次退職勧奨は、Aらの職場であるデザイン室の閉鎖を宣言し、Aらの仕事を取り上げてしまうもので、退職の強要ともいうべき行為であり、その手段は著しく不相当といえると断じています。その上で判決は、社長がこのような強硬な退職勧奨を行ったのは、Aが治療費と謝罪を要求したことに社長が激昂したことが理由であると推認され、デザイン室の閉鎖の必要性があったとまではいえなかったことなどからすれば、第二次退職勧奨は不法行為に当たるとして、慰謝料として、Aに対しては80万円、Bに対しては50万円の支払を命じました。
第一次退職勧奨は、Aらが結婚について既に上司への報告後であったことからすると、元々のAと営業社員との関係の悪さと相まって、Aらの結婚がその引金になったものと推認されます。ただ、この時点ではまだ退職強要といえる程ではなかったものの、その1年後になされた第二次退職勧奨は、Aらの職場の閉鎖を宣言し、その仕事を取り上げてしまうものですから、単なる退職勧奨に留まらず、退職強要に当たることは明らかといえます。
X社は、受注の減少などはないこと、デザイン室の存続に向けて努力した形跡がないこと、一方的に解雇予告手当及び退職金を振り込んだことから見て、退職の理由についてAらに十分な説明をしていないことが窺えます。そうだとすれば、整理解雇の要件(解雇の必要性、解雇回避努力、人選の相当性、解雇手続きの相当性)を明らかに満たしておらず、解雇の理由が専らAらの結婚及び第一次退職勧奨後のAの社長への対応にあったと見られますから、本件解雇が無効とされることは当然といえます。
小規模の会社、しかも同じ職場で夫婦が一緒に仕事をすることについては、やりにくい面もあるでしょうが、だからといって職場結婚を理由に解雇することは許されません。夫婦同一職場を忌避するため、その一方(女性)を解雇した事例は、1960年代には複数見られます(茂原市役所事件 千葉地裁昭和43年5月20日判決、神戸野田奨学金事件 神戸地裁昭和43年3月29日判決、大阪高裁昭和45年11月18日判決)が、いずれも解雇は無効とされました。
本件の場合、仮に同じデザイン室でのAらの勤務ぶりに看過できないほどの問題が認められるのであれば、その点を具体的に指摘して、一方を配転するなどの措置を講じる方法もあったのではないかと思われます。
判例データベース
「参考判例」
T社退職勧奨事件
