女性労働に関する 専門家判例コラム
第2回 女性アナウンサーの定年について 君嶋 護男
女性労働に係る差別が争われた事例は、結婚退職制を巡る争い(Sセメント事件 東京地裁1966年12月20日)を嚆矢として、膨大なものとなっています。結婚退職制については、いずれの裁判においても労働者側の勝訴となり、法律上は決着がついたことから、次に大きな問題となったのが、男女別停年制です(当時は「停年」と呼ばれていた)。
男女別停年制は、当初は女性の年齢が著しく低いケース(男子55歳、女子30歳等)が多く、当時のN放送においては、女性アナウンサー2名が30歳で停年退職をさせられ、その可否が争われた裁判では、仮処分、本訴とも、それぞれ地裁及び高裁で争われ、全て女性側の勝訴に終わりました(本訴名古屋地裁1973年4月27日、名古屋高裁1974年9月30日)。
この裁判で、会社側は、①女子は一般に短期勤続であり、保護規定があって、男子より労働価値が低いこと、②人事の停滞を防止すること、③女子の業務は単純な定型的補助的業務であって、労働の価値は変わらないのに賃金だけが高くなること、④他の企業でも同じ停年制が設けられていることを主張しましたが、いずれも認められませんでした。これらの会社側の主張は、現在では一笑に付されるようなものですが、当時は裁判の場で大真面目に主張されていたわけです。
このように女性アナウンサー側は完全勝訴しましたが、判決を子細に読むと、男女別停年は一切認められないとは言っておらず、「男子55歳、女子30歳」という停年格差は余りにもひど過ぎると言っているに過ぎません。そこで、次には、争いの舞台は男女の年齢差の小さい定年制(男子55歳、女子50歳等)に移っていきました。
現在では、各社とも就業規則等での男女定年差別は行われていないでしょうが、今でも、テレビのニュースやニュースショーなどを見ると、各局とも登場する女性アナウンサーは概ね20歳台か精々30歳台前半の方が大半のように見えます。といっても、現在では、女性アナウンサーは一定の年齢で退職させられるわけではなく、雇用関係を継続したまま別の仕事をし、いわば実質的な職務別定年のような扱いをされているのではないかと推測されます。
私は、ラジオの深夜歌番組を聴くことが多いのですが、某局では、30年以上も前に、テレビで夜のニュースを担当していたいわば花形女性アナウンサーが番組を担当していることを発見しました。「ラジオならば顔は見えない」ということで、このような人事が行われているのでしょうか。「若いうちはテレビに出して、一定の年齢になったらラジオ等人目につかない部署に配置転換する」ことは、もちろん違法ではありませんが、一方で「ルッキズム」などと、特に女性の容姿を重視することに対し厳しい批判を浴びせながら、このような人事施策を講じることはいかがなものかという気がします。
もっとも、この深夜放送では、相当以前にテレビ等で活躍していた現在70歳前後の相当数の男性アナウンサーも番組を担当していますので、その意味では男女均等扱いということができ、高年齢社員の活躍の場を確保しているというプラスの面も認められるかとは思います。
判例データベース
N放送会社若年定年制事件 「参考判例」
事件番号:名古屋地裁 − 昭和44年(ヨ)第483号
事件番号:名古屋高裁 − 昭和48年(ネ)第227号