判例データベース
S市男女昇格差別事件(控訴)
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- S市男女昇格差別事件(控訴)
- 事件番号
- 名古屋高裁 − 昭和55年(ネ)第112号、名古屋高裁 − 昭和55年(ネ)第336号
- 当事者
- 被控訴人 個人1名
控訴人 S市
その他 S市
その他 個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1983年04月28日
- 判決決定区分
- 原判決一部取消し、被控訴人の請求・附帯控訴の棄却(控訴人勝訴)
- 事件の概要
- 控訴人(被告)S市に勤務する被控訴人(原告)である女子職員が、昇格について男女差別があったとして、同市に対して損害賠償(昇格によって得られる賃金との差額、慰謝料等)を請求していた事件で、原審の津地方裁判所は、昇格を実施しなかったのは女性であることにより不当に不利益取扱いをしたものであり地方公務員法13条に違反し、違法に原告の法律上の利益を侵害したものであると判断し、昇格によって得られる賃金との差額の損害賠償については認めたが、これを不服としてS市が控訴したものである。
本件において女子職員は、昇格に必要な在級年数及び経験年数を満たしていたが昇格しなかったことについて、同市と同市の職員組合との間で一定の号級以上に達した吏員は昇格させることが合意されていたにもかかわらず同市がこれに従わず、昇格を実施しなかった、当時、同女子職員は勤務成績及び能力の点で昇格の妨げになるような事項はなかったにもかかわらず同市が女子職員を男子職員に劣後させる方針をとって昇格させなかった、として損害賠償を請求していた。 - 主文
- 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
被控訴人の請求及び附帯控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 公務員の勤務関係における昇格は、もともと任命権者に認められた権限であって、公務員には昇格請求権は存在せず、また、昇格を期待できる地位を取得したからといって昇格する権利が保証されるものでもない。ただ、任命権者において何ら法的に合理的な理由もなく、恣意的に社会観念上著しく昇格に関する裁量権限を濫用して昇格が行われなかった場合に限り、違法として損害賠償義務が認められるものと解するのを相当とする。昇格は、任命上の承認に相当するものであって、ことに等級別標準職務制のもとでは、昇任されて上位の職にある者のうちから選考して昇格させる、というのが本来の筋である。したがって、昇任を終えないで昇格させる場合にあっては、できる限り地方公務員法上昇任に関して定められた規定や法原則を遵守して選考をすべきであって、なかでも任用の根本基準である同法15条に則り同法13条、56条の各規定に従うことは不可欠である。女子職員も含む一定号給以上の号給を受ける昇格基準該当者の中から、男子職員37名(内1名が汚職に関係)、女子職員60名の中から男子28名、女性9名をそれぞれ昇格させた事実が認められ、確かに昇給者数の比率上では男子と女子の間に相当の格差があること、男子職員に関して等級別標準職務制がかなりゆるやかに運用される結果となる観を呈しているが、汚職怠業等の障害事由のない限り一律に昇格させる程ゆるやかに運用していたわけではない。当局が職員団体との間に締結した書面による協定に基づき、一定号給に達した職員を一律に昇格させる旨の選考基準を立て、それに従った運用をするという事実があったとしても、このような基準は地公法に著しく違反するものとして規範的効力を生ずる由はない。控訴人(S市)においては、昇格者選考において任命権者に対し付与せられた裁量権はかなり広範囲にわたっており、本件に係る昇格運用を全般的に見る限り、任命権者が社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱しこれを濫用したと認められない。公務員の昇格について、裁量権の濫用、逸脱があったとは認められなかった例
- 適用法規・条文
- 04:国家賠償法1条
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集34巻2号267頁、判例時報1076号40頁、判例タイムズ498号213頁、ジュリスト798号84頁中嶋士元也
- その他特記事項
- 労働者側上告後、昭60.3.29取り下げによって、控訴審判決で確定した。地裁判決(No.2)参照。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
津地裁 − 昭和47年(ワ)第83号 | 一部認容(原告一部勝訴) | 1980年02月21日 |
名古屋高裁 − 昭和55年(ネ)第112号、名古屋高裁 − 昭和55年(ネ)第336号 | 原判決一部取消し、被控訴人の請求・附帯控訴の棄却(控訴人勝訴) | 1983年04月28日 |