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社会保険診療報酬支払基金賃金請求事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- 社会保険診療報酬支払基金賃金請求事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和55年(ワ)第1866号、東京地裁 − 昭和55年(ワ)第15293号
- 当事者
- 原告 個人18名
被告 社会保険診療報酬支払基金 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1990年07月04日
- 判決決定区分
- 請求の一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 社会保険診療報酬支払基金は、昭和23年に設立された厚生省管轄下の特殊法人である。職員数は約6,000名であり、その半数が女性である。同基金内には、多数組合である基金労組(組合員数約5,000名)と少数組合である全基労(組合員数約120名)があり、両組合に所属する男子職員間で昇格について差別があったとする労使紛争の結果、昭和53年1月、労使協定により男子職員につき、平均経験年数を基準として4等級または5等級在級者に対し、3等級または4等級に選考ぬきで一律昇格をさせる措置を取ることとなった。同労使協定では、附帯事項として男女間の処遇の格差の解消については継続交渉とされていた。同協約に対し多数組合から逆差別とする声が上がり、同年2月、同協約に定められた要件に該当する多数組合の男子職員に対しても同様の一律昇格措置が採られたが、女子の処遇については、再び継続交渉事項とされた。しかし、同年8月労働基準法4条違反として監督署に申告があり、昭和55年1月、監督署は4条違反には当たらないと判断、2月に提訴に至った。
請求内容は、上記の昇格における男女差別的取扱いは、憲法14条、労働基準法3条、4条の趣旨に反し、民法90条の公序良俗に反することから、同一勤続年数の男性と同時期に昇格したものとして取り扱われる地位にあることを確認、昇格が遅れたことによる差額賃金と現在も残る差額賃金、慰謝料及び弁護士費用を請求するというものである。これに対し、被告は、本件は各組合の男子職員の間に存在する格差を是正するための措置であり、女子職員間にはもともとそのような差別はなかったこと、被告の採った措置は組合と締結した労働協約に基づくものであること、同措置は被告の規定に反する異常な措置であり、労使紛争を解決するために採られた一時的、特例的措置であることから繰り返すことはできないこと、その後女性については段階的に昇格差別を解消するよう努力していること等を挙げて反論した。 - 主文
- 一被告は、原告らに対し、それぞれ別紙認容額一覧表(一)「合計」欄記載の各金員及びその内金である同表「金額」欄記載の各金員に対する同表「起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二被告は、原告A、同B、同C、同D、同E、同F、同G及び同Hに対し、平成元年十月から本判決確定に至るまで、それぞれ毎月15日限り別紙認容額一覧表(二)記載の各金員及びこれに対する毎月十六日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三被告は、原告I及び同Jに対し、それぞれ別紙認容額一覧表(三)「退職金差額」欄記載の各金員及びこれに対する原告Iについては平成元年4月21日から、同Jについては昭和60年4月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
四被告は、原告らに対し、それぞれ別紙認容額一覧表(四)「合計額」欄記載の各金員を支払え。
五第二項の原告らの金員請求中、本判決確定後に支払を求める部分に係る訴えをいずれも却下する。
六原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
七訴訟費用はこれを5分し、その4を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
八この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が原告らに対し、それぞれ担保として別紙担保額一覧表「金額」欄記載の各金員を供するときは、右仮執行を免れることができる。 - 判決要旨
- 憲法14条を踏まえた労働基準法3条及び4条の規定の文字の上からは、賃金以外の労働条件について差別的取扱いをすることは直接禁止の対象とされていないが、右規定の趣旨は、賃金以外の労働条件についても、性別を理由とする合理的理由のない差別的取扱いを許容するものではないと解され、労働条件に関する合理的理由のない男女差別の禁止は、民法90条にいう公の秩序として確立しているものというべきである。被告は、組合間の男子職員の昇格における格差の是正に当たって、勤続年数を唯一の基準として男子職員に対し一律の昇格措置をとったにもかかわらず、男子職員と同一の採用試験で採用され、同一の業務内容を担当し、職務上の等級も等しかった女子職員については、右の勤続年数の基準を満たしているにもかかわらず、昇格措置を講じなかった。被告は、男女間の格差の段階的是正のための協約があるから被告の採った措置は違法でないと主張するが、段階的是正自体男女差別である。また、男子職員への昇格措置は組合間差別の是正のためのものであり、女子間にはもともと格差が生じていなかったということは、男女間の格差の存在に合理性を与えるものではない。さらに、本件昇格措置は職員給与規定に反する異常な措置であること、組合との労働協約に基づいて採られた措置であることは、本件が男女差別であり公序に反することを否定することにならない。このような取扱いは、合理的な理由無しに男女を差別して取り扱ったと言うべきであり、被告の女子職員を昇格させないという不作為は不法行為を構成し、被告は原告等に生じた損害(昇格すれば得られた賃金と現実の賃金との差額相当額、慰謝料、弁護士費用)を賠償する責任がある。原告の主張する昇格確認の請求については、職員の昇格は、職務と一体になった等級を人事上の裁量権の行使によって変更するものであるから被告の決定を要するところ、この決定無くして現実に原告が昇格したものと扱うためには明確な根拠が必要である。原告等が主張する労働基準法4条、13条は、昇格における差別である本件に適用することはできず、同法3条、4条の趣旨から労働条件における性別による差別が禁止され男子職員についての労働条件が女子にも適用されるとする主張は無理がある。よって、被告の昇給決定がない以上、原告等が昇格したものとして取り扱うべきとする主張には理由がない。
- 適用法規・条文
- 01:憲法14条,07:労働基準法3条,07:労働基準法4条,07:労働基準法13条,02:民法90条,02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例565号、判例時報1353号28頁、労働法律旬報1244号54頁
- その他特記事項
- 控訴審(東京高裁)で、和解が成立(平成2年12月25日)。昭和53年当時の男性昇格基準(勤続年数)に達していた女性(原告ら18名だけでなく、148名)も昇格したものとして措置され、差額賃金等が支払われた。男女雇用機会均等法の改正により、昇進差別に関しても強行改正も禁止となった(6条)。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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