判例データベース
N社賃金請求事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- N社賃金請求事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和63年(ワ)第9505号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 N株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1992年08月27日
- 判決決定区分
- 一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 被告N株式会社は、昭和39年に設立された主としてロシア語書籍の輸入販売を業とする資本金500万円の株式会社である。原告Aは、昭和41年3月16日被告神田店の正社員となり、それ以降、昭和63年1月31日に定年退職するまでの約22年にわたり被告に勤務した。
原告は入社当時はソ連関連図書販売、切手販売といった補助的・定型的な業務についていたが、昭和42年からは、本社の有力社員が相次いで退社し、神田店の社員3名中原告を除く2名が本社へ配転されたため、神田店責任者としての業務を1人で担当することになった。さらに昭和47年1月頃からはソ連図書発注業務といった、ロシア語の語学能力や各分野の知識情報、顧客ニーズの正確な把握が要求され、高度な判断能力を必要とする業務も行うようになった。その後昭和54年2月には本社に配転され課長待遇となり、昭和55年2月には神田店店長、昭和57年5月には次長待遇となった。
ところが、このような高度な業務を行うようになったにもかかわらず、補助的・定型的な業務を行なう予定で決められた初任給を基に昇給が行われ、かつ、適正な是正も行われなかった。このため、昭和47年1月ごろには、労働の質及び量においてほぼ同時期に入社した男子社員に劣らなかったにもかかわらず、賃金格差が維持・拡大され、昭和57年に次長になった時から昭和63年に退職するまでの間では基本給において約2万円から6万円程度の賃金格差が生じていた。
そこで、遅くとも次長待遇となった昭和57年5月以降基本給に賃金格差があるのは労働基準法第4条違反であるとして、男子の基準に基づいて出した賃金との差額について原告が請求し、提訴した。 - 主文
- 一 被告は原告に対し、金466万1,191円及びこれに対する昭和63年7月22日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを5分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 原告と入社時期が近い男子社員4名間の初任給格差については、業務内容、職歴等を勘案するとそれ相応の理由があるということができ、したがって右初任給格差から直ちに原告が女子であることを理由とする不合理な差別扱いであったとまではいうことができない。しかし、初任給格差が不合理な差別扱いであったとまではいえないとしても、それは原告が入社した昭和41年頃の時点における事情にとどまるもので、昭和57年度以降の本件賃金格差の合理的理由とはなり得ないことは明らかである。したがって、原告が入社後における被告社内の事情の変化に応じて男子社員と質及び量において同等の労働に従事するようになったにもかかわらず、初任給格差が是正されることなく放置された結果として初任給格差が維持ないし拡大するに至った場合には、その格差が労働基準法4条に違反する違法な賃金差別となる場合のあることは否定し得ない。年齢、勤続年数が同じである男女間の賃金格差が合理的であるのは、その提供する労働の質及び量に差異がある場合に限られるべきであって、労働組合との交渉によって決定される昇給率が男女一律であるという事情のみでは、本件賃金格差の合理的理由とはなり得ない。原告の職務は昭和47年1月頃の時点では男子社員4名の職務と比較して劣らないものであり、昭和57年5月頃の時点では、原告と男子社員との間の賃金格差は合理的な範囲に是正されていなければならなかった。昭和57年以降の賃金格差は、原告が女子であることのみを理由としたものか又は原告が共稼ぎであって家計の主たる維持者でないことを理由としたもので、労働基準法第4条に違反する違法な賃金差別であり、しかも適切な是正措置を講じていなかったのはことについて被告に過失のあることは免れないから、不法行為に当たると解するのが相当であり、原告は被告に対して右賃金差別と相当因果関係に立つ損害の賠償を請求し得るものというべきである。
被告は原告に対し466万円を支払うことを命ずる。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法4条,02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例611号10頁、
労働法律旬報1301号21頁、
ジュリスト1017号66頁浅倉むつ子 - その他特記事項
- 本件当事者が控訴しなかったため、本判決は確定した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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