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N放送会社若年定年制事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
N放送会社若年定年制事件
事件番号
名古屋地裁 − 昭和44年(ヨ)第483号
当事者
申請人 個人1名
被申請人 N放送株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1972年04月28日
判決決定区分
一部認容(申請人一部勝訴)
事件の概要
被申請人は、テレビ放送等を目的とする会社であり、申請人は、昭和37年3月26日、被申請人に入社し従業員として勤務していた。被申請人は、就業規則25条に女子従業員の定年を30歳とする旨の規定をもち、申請人は昭和44年4月3日の経過をもって30歳となり、同日、被申請人は申請人が退職したとして、以来、申請人の従業員としての地位を認めていない。なお、男子従業員の定年は55歳と就業規則に規定されている。
これに対し、申請人は、男女別定年制は、性別による差別待遇にほかならず、憲法14条、労働基準法3条、4条の精神に反し、同時に女子従業員の労働権、生存権を侵害し、民法90条により公序良俗違反として無効と主張し、従業員たる地位確認及び昭和44年4月から昭和46年9月30日までの賃金及び昭和46年10月以降の賃金及び訴訟費用、を求めて、仮処分の申請をした。
主文
1.申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有することを仮に定める。
2.被申請人は申請人に対し、金100万円および昭和46年10月1日以降毎月25日限り1ヶ月金4万8,780円の割合による金員を、それぞれ仮に支払え。
3.申請人のその余の申請を却下する。
4.訴訟費用は被申請人の負担とする。
判決要旨
憲法14条は、基本的人権として法のもとにおける平等を宣言し、性別を理由とする合理性のない差別待遇を禁止している。同条を受けた労働基準法4条もまた性別を理由とする賃金の差別を禁止し、同法3条は労働条件について国籍、信条または社会的身分を理由とする差別を禁止している。ところが、労働基準法は、賃金以外の労働条件については、性別を理由とする差別を禁止する規定を設けず、かえって、同法19条、61条ないし68条は女子労働者を保護するため、男子労働者と異なる労働条件を定めている。従って労働基準法は、性別を理由に賃金以外の労働条件について差別することを直接禁止の対象としていないと考えられる。本件のように就業規則による定年退職制は、退職に関する労働条件であることが明らかであり、本件女子定年制が男子の55歳に対し女子について30歳と著しく低いものであり、かつ30歳以上の女子であるということから当然に労働者としての適格性を失うとは即断できないから、もとよりそれは性別を理由とする差別待遇にほかならない。そして、性別による差別待遇が退職という労働契約終了の効果をきたすものであってみれば、労務の提供によって生活を維持している労働者の生存権、労働権をも侵害するものであるから、憲法14条25条、27条の精神にもとることは明らかである。したがって他にこの差別を合理的に理由づけるにたる特段の事情がない限り著しく不合理な性別による差別待遇であり、民法90条による公序良俗違反として無効というべきである。女子労働者が一般的に短期勤続の傾向にあるということは本件女子定年制の合理性を理由づけるに足りるものとは認めがたい。また、被申請人における女子従業員の退職理由、平均勤続年数ないし退職年齢は、本件女子定年制のもとにおけるものであり、なんら右結論を左右するものではなく、かつ、被申請人と同じく他の民間放送会社において30歳の女子定年制の定めがあることをもって、本件女子定年制の合理的理由があるといえない。仮に被申請人において、女子従業員が単純な定型的、補助的業務を担当しているとしても、申請人ら女子従業員が入社時にこのような業務のみに従事する旨の労働契約を結んだと認めるに足りる疎明は何ら存しないから、被申請人が、女子労働者は結婚ないし出産までの一時的就職にすぎないことを前提として、その能力の有無を問わず、一律にこれを担当させている結果によるものと認める外はないが、このような労務管理はそれ自体として甚だしく合理性に欠けるというべきである。思うに、女子若年定年制に合理的理由ありと認められる場合とは、特定の業種または業務に必須の年齢制約が伴い、かつ非適格者に他業種または他業務への配転の可能性のない特殊の場合であろうが、本件女子定年制がかかる場合にあたるとは認められない。
従って本件女子定年制は、女子従業員を男子従業員の55歳定年制と著しく不利益に差別するもので、公序良俗に反し無効といわなければならない。
適用法規・条文
02:民法90条
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集23巻2号313頁
その他特記事項
なし。