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K新報社地位確認等請求事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
K新報社地位確認等請求事件
事件番号
仙台地裁 − 昭和53年(ワ)第334号
当事者
原告個人1名
被告株式会社K新報社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1983年12月28日
判決決定区分
一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
被告は、仙台市に本店を置き、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙の発行等の事業経営を目的とする会社であり、原告は被告に雇用されている女子従業員であり、K新報労働組合の組合員であった。原告は昭和21年4月被告に準社員として雇用され、昭和26年6月社員となり、昭和40年9月普通社員となった。

原告は、昭和46年3月31日就業規則に基づき、定年で解雇され、同年5月1日被告に2号嘱託として雇用された。2号嘱託とは、定年解雇された女子を再雇用するもので、賃金が定年退職時の約6割となる。
これに対し、原告は、昭和46年3月当時就業規則に女子の定年を満45歳、男子の定年を満55歳と規定しているが、公序良俗に反する就業規則であり、それに基づき定年解雇されたので原告が被告の普通社員であることの確認及び債務不履行ないし不法行為による昭和46年4月以降の普通社員としての賃金から既支給額を引いた未払賃金等(2363万6713円、慰謝料300万円、弁護士費用200万円)の支払を求めて提訴した。
主文
原告が被告の普通社員としての地位を有することを確認する。
被告は、原告に対し、金1772万5199円及びこれに対する昭和58年7月1日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
本件就業規則37条は、女子の定年を男子の定年より10歳低く定めているから、被告の企業経営の観点から、定年年齢において女子を低くしなければならない合理的理由のない限り、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして、民法90条の規定により無効であると解すべきである(憲法14条1項、民法1条ノ2参照)。2号嘱託は、賃金が退社時の本俸及び第2本俸の60パーセントを目途に決められること、昭和46年当時の雇用限度期間が2年であること等普通社員に比べ著しく雇用条件の低下を伴うものであり、また、2号嘱託制度は、組合との協約に基づくとはいえ、男女の定年を同一にする前提として、年功型賃金体系の見直しをするための暫定的なものであるから、被告は相当な期間内に右賃金体系を改正し、男女同一の定年制を採用すべきことが要請される。したがって、二号嘱託制度の採用は、かかる改正措置を採るに必要な相当期間内においてのみ、社会的に認容される余地がないとはいえないが、右相当期間を経過すると、二号嘱託の制度自体が存続の目的を失い、違法無効となるものと解すべきである。被告が、昭和41年6月から昭和46年3月までの間、右改正措置を採っていないことは明らかであるから、昭和46年3月当時2号嘱託制度は違法無効となり、これをもって、被告の男女差別定年制を合法化することはできない。

よって、本件就業規則37条中女子定年部分は、専ら女子であることを理由として差別したことに帰着し、性別のみによる差別を定めたものとして、民法90条により無効であると解するのが相当である。被告は、原告と被告との間で和解契約が成立した旨主張し、そして、原告が被告から、昭和46年3月31日定年退社の辞令の交付を受け、退職金236万9580円を受領し、同年5月1日二号嘱託採用の辞令の交付を受け、その後5年間に亘り功労年金72万円を受領し、前示のとおり二号嘱託の雇用期間を延長してきたことは、原告の自認するところである。

しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、原告としては、当時止むを得ず右の各所為に出たものであって、本件就業規則37条や二号嘱託の制度が違法であることまで認識していなかったこと、途中で右の違法を認識したけれども、生計を立てるため被告の取扱に従わざるを得なかったことが認められるので、前記各事実をもって、原・被告間に和解が成立し、又は原告の社員たる地位の主張が信義則に反するということはできない。証人証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は組合が原告外1名の雇用期間延長問題を団交によって解決しようと努力し、被告との間で雇用期間を昭和55年3月31日までとする協定の成立した昭和53年3月11日に本訴を提起したことが認められるけれども、何人も裁判を受ける権利を有し、これを妨げてはならないから、右認定事実をもって直ちに信義則に反するということはできないし、他に原告が普通社員たる地位を有する旨主張することが信義則に反し権利の濫用になると認めるに足る資料はない。原告は被告の普通社員たる地位を有するということができ、被告がこれを争っているから、その地位の確認を求める原告の請求は正当として認容すべきである。被告主張の各賃金賞与請求権がその主張のように2年間の時効期間を経過していることは当裁判所に顕著であり、そして、被告がその主張のように消滅時効を援用していることは訴訟上明らかである。

しかしながら、無効である定年制を適用して原告を定年解雇とし、違法無効な二号嘱託として原告を処遇し、その間女子の定年を延長しながら、これを原告に適用することなく、違法状態を10年余りに亘り継続してきたのは、ほかならぬ被告自身であることは前示のとおりであり、これに原・被告間の地位関係等を合せ考えると、原告が権利の上に眠り権利行使を怠ったとして責を負わすことは、著しく公正の原則に反するということができ、結局被告の時効援用は権利の濫用として許されないと解するを相当とする。原告は被告の10年余りに亘る差別的取扱いにより著しい精神的苦痛を受け、右の取扱いを排除するため原告代理人に依頼して本訴の提起を余儀なくされたことが明らかである。

よって、被告は、民法709条により、原告に対し、原告が右所為により受けた損害を賠償すべき義務がある。

なお、原告の損害賠償請求の訴の追加について、被告は異議を述べているが、右の訴は社員たる地位の確認、賃金等の支払を求める各訴と請求の基礎を同一にするから許されるといわなければならない。
そして、原告の右精神的苦痛を慰藉するには、前示認定の諸事情等を斟酌すると金120万円をもって、弁護士費用は本件訴訟の進行状況等に鑑み金150万円をもって、それぞれ相当とする。
適用法規・条文
02:民法90条,02:民法709条
収録文献(出典)
判例時報1113号33頁、判例タイムズ516号195頁、労働判例423号29頁、労働経済判例速報1175号6頁、労働法律旬報1093号69頁、照井敬・労働判例427号4頁
その他特記事項
なし。