判例データベース
O社地位保全等仮処分申請控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- O社地位保全等仮処分申請控訴事件
- 事件番号
- 仙台高裁 - 昭和43年(ネ) 第166号
- 当事者
- 控訴人 株式会社
被控訴人 個人1名 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1971年11月22日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴人勝訴)
- 事件の概要
- 控訴人O社は経営悪化のため人員整理をすることとなり、希望退職をつのった。
控訴人は、(1)被控訴人の担当職務が他の課員が分担することができ、会社再建に不可欠な従業員でないこと、(2)夫が司法書士をしていて退職しても比較的経済的に困らない立場にあることから、退職基準に該当する被控訴人に対し、口頭で2回希望退職の勧告を行った。
その後、希望者に予定数に達しないため、控訴人は、(1)定年に近い人、(2)有夫の女子、(3)健康その他により業務遂行が十分でない人、(4)事業場間又は事業場内での配転不能な人、(5)自家営業その他生活の途を有する人等の解雇基準を設け、指名解雇することを発表した。
被控訴人は、一旦は説得に応じて退職に応じたが、後に上記基準が違法であるとして退職願を撤回したところ、控訴人は、被控訴人に対し退職辞令を交付したため、被控訴人は地位保全を求めて訴えを起こした。
原審の盛岡地裁一関支部では、本件退職は無効であると判断したため、これを不服として会社側が控訴したものである。 - 主文
- 原判決を取り消す。
被控訴人の本件申請を却下する。
訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 退職勧告は会社においてぜひ退職してほしいと考えている者につき、予め作成されたリストに基づき、被控訴人個人に面接して直接具体的に退職を求めており、しかもこれに応じて退職の申出がなされれば重ねて諾否を検討する余地なく直ちにその日付で雇用関係を終えさせようとの意図をもってなされたものとみるのを相当するから、右退職勧告は解約の申込たる性質を有するものと解すべきである。そして、控訴人の本件退職の意思表示は承諾たる性質を有する。
そうしてみると、被控訴人が会社に対し退職願を提出して受理されたことにより雇用契約の合意解約が成立したものというべく、被控訴人が会社に右退職の申出の撤回する旨の意思表示をしたとしても撤回の効力は生じなかったものというべきである。本件募集の趣旨は、基本的には、「有夫の女子」に限らず、ひろく「会社員のうち退職を希望するひと」を募ることにあったわけである。そして、任意退職(希望退職)は解雇のごとき一方的な形成権の行使とは異なり、双方の自由な合意によって成立するものであるから、右のような募集の趣旨、経過からみると本件の場合、「有夫の女子など」という募集基準は差別取扱の基準として機能する余地はなかったものといわなければならない。
会社は、希望退職勧告の基本的態度として、会社再建に十分能力を発揮できるとは認められない人に退職して貰う。また、退職しても経済的に打撃の少ない人を選ぶという見地にたっていたこと、そして被控訴人については会社再建に不可欠な従業員ではなく、かつ退職しても比較的経済的に困らない立場にあると判断していたことがうかがわれ、被控訴人が既婚であること及び女子であることそれ自体を理由とするものではなく、要は夫が司法書士をしており、夫の兄が弁護士をしているのであるから退職しても他の従業員に比べ経済的に困らないのではないかということがその実質的な理由となっているものと認められるものである。
そうしてみると、会社が本件退職勧告にあたり被控訴人に対し「有夫の女子」なる理由を表示して勧告を行ったものとは認めがたく、他に退職勧告自体を違法無効とする事由は認められないから、これに対する承諾がなされれば承諾の意思表示に錯誤、脅迫などの瑕疵が存しない限り、前記合意解約を無効とすべきではない。会社は、特定労働者が有夫の女子であることを理由に同人に対する解雇を確定的に予定しながら、解雇という手段を回避しつつ、これを企業より排除する意図を有していたものとは認め難い。
被控訴人の解雇が確定的であったと判断すべき相当な理由があったものとはにわかに断じがたい。控訴会社もしくは組合が被控訴人を畏怖させてまで退職の意思表示をさせようとする意図を有していたものとは認められず、また控訴会社、もしくは組合の行為がその内容および方法において違法な脅迫行為にあたると評価することもできない。本件合意解約は有効であって、被控訴人は退職の申出の日の経過により雇用契約上の地位を失ったものというべきである。 - 適用法規・条文
- 99:なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集22巻6号1113頁、
香川孝三・ジュリスト520号127頁 - その他特記事項
- 本件は確定した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
盛岡地裁 − 一ノ関支部昭和41年(ヨ)第6号 | 全部認容(申請人勝訴) | 1968年04月10日 |
仙台高裁 - 昭和43年(ネ) 第166号 | 原判決取消(控訴人勝訴) | 1971年11月22日 |