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T社労働契約存在確認等請求事件

事件の分類
雇止め
事件名
T社労働契約存在確認等請求事件
事件番号
横浜地裁 − 昭和38年(ワ)第500号
当事者
原告 個人7名
被告 T株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1968年09月19日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
被告は電気機器等の製造販売を目的とする株式会社であり、原告Aは昭和35年1月、原告Bは昭和34年11月、原告Cは昭和33年12月、原告Dは昭和35年11月、原告Eは昭和34年1月、原告Fは同年3月、原告Gは同年4月、それぞれ被告会社に入社した。原告らは、いずれも入社当時被告会社と契約期間を2ヶ月と記載してある臨時従業員として労働契約書を取交わしてその従業員となり、その後、会社は、原告Aについて5回、Bは6回、Cは12回、Dは15回、Eは22回、Fは21回、Gは23回にわたって右契約を更新したが、各人に対しそれぞれの期日に、期間満了日をもって右契約更新の拒絶の意思表示をなし、満了日後の就労を拒否している。
これに対し、原告らは被告に対し、いずれも労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び各金員を求めて、提訴した。
主文
原告A、同B、同D、同EおよびFが被告に対し雇用契約上の権利を有することを確認する。
被告は右原告等に対しそれぞれ別紙賃金表(1)記載の金員および昭和38年6月以降毎月26日に別紙賃金表(2)記載の金員の支払をせよ。
その余の原告両名の請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用中、原告A、同B、同D、同Eおよび同Fに関する部分は被告の負担とし、その余の原告両名に関する部分はそれぞれ同人等の負担とする。
この判決は、第二、四項に限り、かりに執行することができる。
判決要旨
会社と原告らとの間に締結された本件各労働契約は、固より正規従業員(本工)契約とは異なり、本工登用試験の合格により本工に採用されうる、当初は有期(2ヶ月)の労働契約であったが、この2ヶ月の雇用期間の定めは叙上の事実関係の下において本件各労働契約が締結されかつ数回ないし20数回に亘って更新され原告らが引続き雇用されてきた実質(いわゆる連鎖労働契約の成立)に鑑みれば、殊に会社の設備拡張、生産力増強に伴う緊急の労働力需要に基く過剰誘引とその利用関係の維持に由来することからしても、漸次その臨時性を失い本件各傭止めの当時にはすでに存続期間の定めのない労働契約(本工契約ではない。)に転移したものと解するのが相当であるから、原告らに対する会社の本件労働契約更新拒絶の意思表示は法律上解雇の意思表示とみるべきであって臨時従業員就業規則第8条所定の「契約期間が満了したときは解雇する。」旨の規定は本件各解雇当時においてはすでに原告らに対して適用する由なく、これに準拠して原告らの雇用関係上の権義を消滅させることは許されないというべきである。経歴詐称の点については、原告Cは、入社前Mガラスに約3年8ヶ月勤務していたが、会社に応募の際提出した履歴書にその旨の記載がなくその期間本籍地の自家にて農業に従事と記載されていること、同原告は入社後会社工場内での作業は支障なく行い、その勤務成績も普通であったこと、また、右Mガラス在職中には、何ら問題になるようなこともなく、仕事が同原告の性格に合わなかったため任意退職したものであることが認められ、この認定を妨げる証拠はなく、右履歴書調査は前記同原告の工場配転換の接渉中にはじめてなされたものであることは会社の自陳するところである。ところで、臨就規第8条によれば、経歴詐称があった場合には、その従業員を解雇しうる旨定められていて、自己の経歴を詐称するが如きことは固より労使関係の信頼性を破り企業秩序に悪影響を及ぼすもので許さるべきことではないが、同原告の右履歴書不実記載が殊更悪意を以ってなされたことおよびそれが同原告の会社における職種、配置、仕事に特段の影響を与えたことの証拠はなく、又、雇用当時その事実が判明していたならば、雇用しなかったであろうという具体的な因果関係の存在をも認めるに足る根拠はなく却って、証人の証言によれば、同原告が入社の際履歴書に右の記載をしたとしても採用していた筈であることが認められるから、同原告の右所為を臨就規第8条(7)、第9条(4)所定の経歴詐称に該当することを理由とする解雇は行過で不当である。ところで会社は、持物点検については、臨就規にその根拠がある旨主張するが、臨就規第27条によれば、「日常携帯品以外の物品を持って出入するときは、所定の手続を経て警備員の点検の受けなければならない。」旨規定されており、右所定の手続とは、証人の証言によれば、社製品を持ち出す場合には会社から物品持出証の交付を受ける手続になっており、それを意味することが認められるのであって、これによって同条の規定の趣旨をみるとき、それは日常携帯品以外の物品を持って会社に出入りするときは、その出入りする者が自発的に会社の定める右手続を経た上で、警備員に対し、当該物品がその手続を経た物品であるかどうかの点検を受けなければならないことを定めたものであって、警備員が会社に出入する臨時工に対し一般的、個別的に持物検査をなしうる根拠を定めたものとは認められない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集19巻4号1033頁
その他特記事項
本件は控訴された(No.60参照)。