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T社地位保全等仮処分申請事件

事件の分類
雇止め
事件名
T社地位保全等仮処分申請事件
事件番号
名古屋地裁 − 昭和47年(ヨ)第468号
当事者
申請人 個人1名
被申請人 T株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1974年09月30日
判決決定区分
申請(一部認容)
事件の概要
申請人は、被申請人会社であるT株式会社に、パートタイマーとして雇用され、午前9時から午後5時まで勤務し、業務内容は正規従業員と異ならないものだった(正規従業員の就業時間は午前8時から午後4時)。賃金支払方法や労働条件はパートタイマーと正規従業員とは異なっていた。また、パートタイマーには定年制がない、と申請人は説明を受けた。

被申請人は、ドルショックによる不況のあおりを受けて業績が低下し、会社の固定資産等売却する等行い、さらに企業存続のため、人員削減をなすことになった。臨時雇用者6名全員を解雇することになり、申請人を除く5名は会社の申出を承認した。
申請人は、被申請人の従業員としての地位保全と賃金支払いの仮処分を求めて、提訴した。
主文
(1)申請人が被申請人に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
(2)被申請人は申請人に対し、昭和47年3月19日以降毎月25日限り金4万4,159円の割合による金員を仮に支払え。
(3)申請人のその余の申請を却下する。
(4)訴訟費用は被申請人の負担とする。
判決要旨
一般に不況に伴う企業合理化のための整理解雇は、少なくとも解雇された者を含めて一般従業員を納得させるに足る客観的に相当な理由を要するものということができるが、必ずしも厳密な意味での最後の手段であることまでを要求されるものではないと解すべきである。何故ならば、企業それ自体は少なくとも収支相償って存続することが前提となっているのであり、しかも企業運営の責任が経営者にある以上、企業経営者が経営危機を打開し、企業の再建・存続を図るため費用節減の手段として相当多数の労働者を経営者の責任において整理解雇することは経営者に課せられた当然の義務であり、併せて流動的な経済事情に対する適確な判断が極めて困難なことを考えると整理解雇の基準も、強行法規、労働契約、労働協約の特段の規定に抵触せず、永続的経営危機の打開という本来の目的に反しない限り、経営者の裁量に委ねられるべきことがらであるからである。

このような見地から考えて、認定の事情のもとになされた本件整理解雇には、相当な理由があったものということができる。即ち臨時雇用者とは、本来は企業の一時的業務繁多又は労働者側の差支えその他特別な事情のためにある特定の期間を限って雇用され、更には特別の業務に従事する者、或いは正規従業員となる前段階としての一時的な身分関係(試用期間等)をさすものである。また、パートタイマーとはフルタイマーに対する言葉であり、1日又は1週間もしくは1ヶ月の所定勤務時間が一般労働者より短い労働者をさすもので、労働時間以外の点例えば担当職種(業務内容)・雇用期間等においてはフルタイマーと何ら異なるものではない。ただパートタイマーは同時に臨時雇用者であることが通常であるために、パートタイマーが臨時的色彩を有するものと解され易い。しかしながら、パートタイマーと臨時雇用者とは本来必然的に結びつくものではない。パートタイマーが同時に臨時雇用者であるか否かはパートタイマーとの雇用契約にいかなる内容を盛るかにより定まるものである。

したがって、臨時雇用者として整理解雇の第1順位者とすることに合理性があるか否かの基準は、まず具体的な個々の雇用契約成立時の事情や契約期間ないし従事すべき職務の内容その他の契約条項、並びに、勤続期間その他諸般の事情を統合して実質的雇用関係が本来の臨時的なものであり、したがって、企業との結びつきの度合が一般従業員に比して稀薄であるか否かの点に求められるべきである。申請人の雇用は、名古屋出張所の開設に当たり同出張所の業務運営のため必要な要員として会社自体当初は正規従業員として雇用する予定であったところ、出勤時刻が就業規則所定のそれより1時間遅くなった関係上やむなくいわゆるパートタイマーとされ時間給の賃金を受けることになったものにすぎず、申請人の担当職務内容及び1日の勤務時間は正規従業員と全く異ならず、申請人は会社の恒常的業務のために期間の定めなく雇用されたもので、現に本件解雇まで約3年間継続して勤務してきたものである。
したがって、申請人が会社において呼称しているパートタイマーないし臨時雇用者(前記のとおり「上呼称は必ずしも実体にそぐわないものである」に一応該当するとはいえ、その実質的雇用関係は必ずしも他の正規従業員に比して会社との結びつきの度合が稀薄であり、或いは、会社への貢献度が少ないものといえないのであるから、単に会社においてパートタイマーとしての取扱いを受けていたという理由だけで整理解雇に際し第1順位の解雇対象者とするには合理的な理由を欠くものというべきであり、本件解雇は相当な理由を欠き無効というべきである。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
労働経済判例速報861号7頁、労働法律旬報871号43頁、労働判例211号38頁、山口俊夫・ジュリスト614号133頁
その他特記事項
なし。