判例データベース
T社地位保全仮処分申請事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- T社地位保全仮処分申請事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和47年(ヨ)第2277号
- 当事者
- 債権者 個人1名
債務者 T株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1974年11月29日
- 判決決定区分
- 申請却下(債権者敗訴)
- 事件の概要
- 既婚の女子を除き30歳未満の男女を社員とし、30歳以上の男女及び既婚の女子を准社員として採用する旨の基準を設け、准社員は一定の期間契約を更新することとしていた会社(債務者)で、昭和46年11月に准社員として雇用された女性(債権者)が2回の契約更新をへて勤務していたが、47年5月をもって傭止めをするという意思表示をうけその後の就労を拒否された。
女性(債権者)は地位保全等を求めて仮処分を申請した。 - 主文
- 本件申請を却下する。
申請費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 債務者が30歳以上の男子及び既婚の女子は准社員として採用する旨の基準を設けていることは当事者間に争いはなく、債権者は30歳未満ではあるが既婚の女子であったため准社員として期間の定めをつけて雇用されたものであることは債務者の明らかには争わないところである。
債権者は、右基準により既婚の女子を一律に准社員として雇用することは性別による差別であり婚姻の自由を侵すものであるから、右基準に基づいて付された期間の定めは無効であると主張するのであるが、右基準は過去において既婚の女子を正社員として採用した場合出産、育児その他家事に追われて恒常的基幹的労働力としての期待を裏切られることが多かったという経験に基づいて設けられたものであり、しかもこれは採用の基準であって(正社員として採用された後結婚した女子はそのまま正社員として雇用される)、既婚の女子であっても正社員に登用される途も開かれていることが一応認められるので、右採用の基準は合理的なものとして容認できるし、債務者に雇用されるか否かは勿論応募者の自由であるから右採用の基準が婚姻の自由を侵すものとは到底考えられない。期間の定めがある雇用契約であっても、被用者において期間満了後も引続き雇用されることを期待しそれに合理的理由がある場合には、雇用関係を終了させることは実施上解雇の場合と変わらないので、そのためには更新拒絶の意思表示を必要とし、しかも右拒絶が思想信条を理由とする差別的取扱など信義則上許されない時又は権利の濫用にわたる時は無効と解するのが相当である。債務者は昭和45年頃から売上げが伸びなくなり、同46年にはいわゆるニクソンショックによる経済界の不振に伴ない売り上げ実績は当初計画を大巾に下回ったこと・他方人件費は増加を続け、労働分配率(限界利益に占める人件費の割合)は、債務者において適正率と一応考えていた50パーセント台を遙かに越えて昭和45年度70パーセント同46年度75パーセントと上昇をしてきたこと・そこで債務者は昭和46年11月総雇用量の減少を中心に5項目の対策を決めて実施を図ったこと・その対策のうち人員縮減については労働分配率を67.5パーセントに引き下げることを目標に間接員の直接員への転換及び高齢者、非能率者、准社員の退職を進め、その結果同47年6月までの間に嘱託者の解雇17名、准社員の傭止め11名を含め57名の退職者を出したこと・一方債権者の勤務状態は、他の准社員に比較して相当劣るものであること・また債権者は作業中しばしば無断離席して作業に支障を来たし上司からの再三の注意に拘わらず改まらず、作業内容もたとえばリード片スポット作業において標準作業指示どおりの3ヶ所スポットを手抜きして2ヶ所スポットで済ませるなどのごまかしがあったこと、の各事実を一応認めることができる。
これらの事実からみると、債務者が本件傭止め当時総雇用量の減少策の一つとして准社員の傭止めにしたことには正当な理由があったものといわねばならない。 - 適用法規・条文
- 99:ない
- 収録文献(出典)
- 判例時報765合109頁、労働経済判例速報869号15頁、労働判例215号51頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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