判例データベース
放送会社地位保全仮処分申請事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 放送会社地位保全仮処分申請事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 昭和48年(ヨ)第2269号、大阪地裁 − 昭和49年(ヨ)第970号
- 当事者
- 申請人 個人2名
被申請人 放送会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1975年03月27日
- 判決決定区分
- 申請認容(申請人勝訴)
- 事件の概要
- Aは昭和46年8月1日、Bは昭和47年4月1日いずれも期間6ヶ月の約束で被申請人会社に雇用され、その後、それぞれ3回契約を更新して引き続き勤務してきたが、会社は臨時雇用者就業規則(以下「臨就規」という。)4条2項を適用して、雇入れから満2年たった昭和48年7月31日、及び同49年3月31日、それぞれ雇用期間満了を理由に退職したものとして以後従業員として扱わないとした。会社は昭和46年3月、臨就規を制定し、4条で、アルバイトの雇用期間は6ヶ月以内とすること(1項)、雇用期間満了の際再契約をすることがあるが、いかなる事由があっても3回をこえて再契約を行わないこと(2項)を定め、26条で雇用期間が満了したときは退職とすることを定めており、昭和42年以降、女子を社員として採用していない。A、Bは昭和42年放送開始のラジオ番組「ABCヤングリクエスト」に係る葉書の運搬・分類・整理、記念品の発送等の業務に従事していたもので、上記の会社の措置に対し地位保全の仮処分を申請した。
- 主文
- 一 被申請人は申請人両名をその従業員として仮に取り扱え。
二 被申請人は申請人Aに対し昭和48年8月1日以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り金4万6,500円を、申請人Bに対し昭和49年4月1日以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り金4万2,000円をそれぞれ支払え。
三 訴訟費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 申請人らと会社との間の雇用契約は臨就規に依拠して締結されたもので、放送関係の葉書整理等部内庶務業務に従事させるため、臨時的業務に従事させるというよりは補助的業務に従事させるものとして雇用し、いわゆる常勤アルバイトと呼称して継続的に雇用しているものである。
そして、先に詳細に認定したところの会社における常勤アルバイト制度導入の経緯、とくに臨就規制定前の会社のアルバイト雇用に関する通達の変遷(昭和42年10月23日付通達で雇入れ期間を2ヶ年とするアルバイトを創設し、昭和45年5月8日付通達で、学生を除く常勤アルバイトのうち6ヶ月を超えて勤務する者に社会保険の加入を認めたこと)、女子常勤アルバイト雇用の実態、その業務内容、申請人らの雇用契約締結およびその後の更新手続の実態等からすれば、申請人らと会社の間で取り決められた6ヶ月という期間の定めは、臨就規4条1項に依拠した単なる形式上のものに過ぎないものであって、申請人らと会社との間の雇用契約は、実質的には契約締結後2年で雇い止めすることを内容とする、期間の定めのない雇用契約と異ならないというべきである。
したがって、会社が当初の契約時から2年未満内に到来する6ヶ月毎の期間満了時に申請人らを雇い止めするには、単に期間が満了したという理由だけでは足りず、臨就規26条2項列挙のアルバイト解約事由に該当する場合に限り、かつ、その際、雇い止めの意思表示(その性質は更新拒絶ないし解雇の意思表示である)を必要とするものと解すべきである。申請人らと会社との間の雇用契約における2年の雇い止めは、臨就規4条2項所定の「いかなる事由があっても3回を超えて再契約を行わない」旨の条項に依拠するものであるが、右2年雇い止め条項の法的性質は、労働者を拘束する意味の労働基準法14条の労働契約期間ではなく、2年の雇用期間経過を解約の条件とする定年解雇制類似の性質を具有するものとみるべきである。いかに定年解雇制類似の自由な雇い止めとはいっても、そこには自ら公序良俗、信義則、権利濫用法則等のいわゆる一般条項による制約があり、これを離れた恣意的行為が許されるものではなく、とりわけ右雇い止めは実質上若年定年を理由とする解雇と同様の機能を営むものであるから、解雇の法理を類推してその雇い止めによる解約が著しく苛酷にわたる等相当でないときは権利濫用の法理により無効となると考えられる。本件において2年間の職務経験を積んだ申請人らを雇い止めにして新たに申請人らと同種の女子常勤アルバイトを採用して同一の業務を担当肩代わりさせているが、これは被申請人会社にとって能率低下等によって不利益になりこそすれ何ら利益となるものではなく、また申請人らのいわゆる常勤アルバイトの賃金は日給として勤続期間に関係なくその額が固定されており、右の雇用替により経費節減の効果さえ果たし得ないものであり、しかも通常の高齢定年制の場合と異なり2年の経過により直ちに申請人らの職務能率の低下が考えられないものであって、被申請人会社には申請人らに対する本件雇い止めを行うのは同会社の嗜好のほか何ら合理的利益は存しないというほかない。
もっとも、被申請人会社がこのような雇用替を行っているのは、前記常勤アルバイト制度導入の経緯に照らすと、女子従業員の高齢化に伴い、結婚、出産等による欠勤数の増加、組合活動の活発化を回避し得る利益を念頭に入れてのこととも考えられないではないが、これらの理由は労働法規の脱法的利益であって権利濫用の判定上被申請人側に有利な事情としての合法的な利益に数えることはできない。右各事実を考え併せると、本件雇い止めは被申請人会社において何ら合理的利益もなく、専ら申請人にその職場を奪う損害と苦痛を強いるものであることが、推認できるから、被申請人の行った本件雇い止めは著しく苛酷にわたるものであっていずれも権利濫用として許されない。 - 適用法規・条文
- 02:民法90条
- 収録文献(出典)
- 判例時報782号93頁、労働判例22号55頁、労働経済判例速報879号3頁、労働法律旬報882号83頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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