判例データベース
東京靴会社賃金等請求事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 東京靴会社賃金等請求事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成3年(ワ)第9297号、東京地裁 − 平成3年(ワ)第9345号
- 当事者
- その他 個人1名B
被告 甲事件A靴株式会社
その他(甲事件被告・乙事件原告)個人1名 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1994年04月11日
- 判決決定区分
- 甲事件一部認容(原告一部勝訴)、乙事件一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 甲事件は、原告Bが、被告会社に日曜日、上司の専務取締役被告から電話を受け、出勤したところ、被告Cからわいせつ行為を受け、抵抗して難をのがれたが、10日後の祝日出勤を強要され、被告Cから性的嫌がらせを受け、暴言を浴びせられた上、全く身に覚えがないのに、原告Bに嫌疑がかかる方法で被告会社の現金の盗難被害届を出されたため、多大な精神的苦痛を受けたとして、被告C
及び被告会社に対し、それぞれ不法行為責任(民法709条)、使用者責任(同法715条)に基づき、慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の損害賠償金並びに不法行為後(訴訟送達の翌日から)の遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、被告会社に対し、平成3年1月分の未払賃金21万円及び弁済期経過後の遅延損害金の支払を求めた事案である。
乙事件は、被告Cが、原告Bから、平成3年3月15日付け内容証明郵便により、被告Cが平成元年9月と10月の2回にわたり原告Bに対し強姦未遂行為に及び、平成2年以後もなお性的嫌がらせを続けようとし、他の従業員の面前で原告Bに対し、暴言を浴びせたとして、被告会社と連帯して慰謝料500万円を支払え、との請求を受けたが、右のような行為はなかったのであるから、名誉と社会的信用を著しく侵害されたとして、その慰謝料100万円及び不法行為後(訴状送達の翌日から)の遅延損害金の支払を求めた事案である。 - 主文
- 一 被告会社は、原告Bに対し、金5万1200円及びこれに対する平成3年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告Bの被告会社に対するその余の請求及び被告Cに対する請求を棄却する。
三 原告Bは、被告Cに対し、金30万円及びこれに対する平成3年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
四 被告Cのその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用中、原告Bに生じた費用の50分の47、被告会社に生じた費用の100分の99及び被告Cに生じた費用の20分の19を原告Bの負担とし、原告Bに生じた費用の100分の1及び被告会社に生じたその余の費用を被告会社の負担とし、原告Bに生じたその余の費用及び被告に生じたその余の費用を被告Cの負担とする。
六 この判決は、第1項及び第3項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 原告Bと被告会社との間において、原告Bは平成3年1月以降時給800円のパートタイマーとして被告会社に勤務する旨の合意が成立したものと認められるのであり、その未払賃金は5万1,200円(時給800円×64時間)であるといわなければならない。1原告Bの被告会社におけるタイムカードには、平成元年10月1日(日曜日)、同月10日(祝日)に出勤した旨の打刻はなされていないことが認められ、このことからすると、原告Bが右両日被告会社に出勤したと認めることは困難である。
2被告Cは、本人尋問において、平成元年10月1日午後2時ころから午後7時ころまでの間、自宅付近にある健康センターに妻とともに行ったと供述しており、これを裏付ける同センター発行の同日付領収証(<証拠略>)と被告会社の会計帳簿(<証拠略>)が存在する。また、被告Cの供述によると、当時、被告会社従業員の2名は、休日には必ず被告会社に出勤し、1階で仕事していたというのであるから、平成元年10月1日についても同様であるとすると、被告Cが原告主張のようなわいせつ行為に及べば、1階で執務中の両名に聞こえるはずであり、このような状況の中で、被告Cがわいせつ行為をなしたとは考えがたい。右事実によると、被告Cは、原告Bの右内容証明郵便の送付により精神的苦痛を受けたものと推認されるところ、先に説示したとおり、被告Cが原告Bに対し、わいせつ行為等の不法行為をしたとの事実を認定することはできないから、右送付行為は、正当な権利行使とは認められず、違法性を有するというべきである。原告Bは、事実の流布の範囲が限られていることを問題にしているが、右書面の記載内容にかんがみると、被告Cの名誉感情が著しく侵害されたことは明らかであるから、右送付行為が違法であるとの結論に変わりはないというべきである。また、先に説示したところから明らかなように、原告は、自己の主張を裏付ける証拠がはなはだ不十分であるにもかかわらず、右書面を送付したものであるから、原告Bには少なくとも過失があるといわなければならない。したがって、不法行為が成立するのであり、右行為の態様、内容、右担当因果関係のある流布の範囲その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、被告Cの精神的苦痛に対する慰謝料としては30万円が相当である。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例655号44頁、労働経済判例速報1531号3頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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