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石川県建設会社事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
石川県建設会社事件
事件番号
金沢地裁輪島支部 − 平成4年(ワ)第3号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社A建設

被告個人1名
業種
建設業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1994年05月26日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
被告会社は、土木建設工事請負、土木建設機械器具等の賃貸等を業とする会社で10名ほどの個人企業である。被告は、被告会社の代表取締役であり、妻とは別居中で、1人暮らしである。

原告は、被告会社に入社し、被告社長の自宅の家政婦的仕事に従事していた。

被告社長は、次第に原告の身体を触るようになり、口を近づけたり、抱きつこうとしたり、性的関係を求めたりしたが、原告は拒否していた。

その後、被告社長は原告に辞めてほしいと思い、昼食を自宅で食べず、金銭の支払いを原告にさせなくなり、原告も被告社長の命令に反抗したり、言い争いをするようになった。

また、被告会社はボーナス支給額を、従業員の勤務態度、成績などを勘案して決定していたが、原告の勤務期間、成績などから対象外とし、支給しなかったため、原告は要求し、執拗に抗議したため、被告社長は原告を解雇した。
これに対し、原告は、一連のセクシュアルハラスメント行為とくに3月27日の強姦未遂、性的要求拒否による嫌がらせ、8月7日の暴行、解雇につき、不法行為を構成するもので慰謝料500万円等の支払いを被告及び被告会社(民法44条、709条、715条、415条)に求めた。
主文
被告らは、各自原告に対し、金80万円及びこれに対する平成4年1月18日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを6分し、その5を原告の、その余を被告らの負担とする。
この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
個々の言動のなかには、原告の言動に照らすと、世間話や冗談、飲酒の上での猥談にすぎず、許される範囲内のものもあり、すべてが違法となるものではないが、被告は、原告の体に触ったり、胸に触ろうとしたり、抱きついたりしており、右行為は、原告に不快感を与え、また一般の女性であれば不愉快に感じる行為であって、原告の仕事が家政婦的仕事であり、被告の自宅で被告と一対一の仕事であることを考えると、被告の右行為は、その労働環境を悪化させるものであり、セクシュアルハラスメントとして違法というべきである。被告会社代表者兼被告は、当時原告に辞めてほしいと考えた理由として、原告の整理整頓の拙さや食事の不味さ等をあげ、原告の仕事ぶり及び性格は前記のとおりであるものの、その程度は解雇を考えるほどではないと認められること、また、前記嫌がらせは、前記性的行為の中止と時期を同じくして始まっていることを考え合わせると、前記嫌がらせと被告の前記性的行為との間に因果関係がないとはいえない。

そうすると、被告の右嫌がらせは、前記性的行為に対する原告の対応を一因として、原告に不利益を課しており、前記性的行為と一体として、セクシュアルハラスメントと認めることができ、違法というべきである。原告に対する解雇は、原告の性格及び仕事ぶりは前記のとおりであり、また、7月以降の両者の関係は通常とはいいがたく、作業日報の記載、駐車場所の注意及びそれに対する原告の行動、その後の原告の言動にみられる原告の指示命令違反、反抗的態度は著しく、被告の前記嫌がらせに対する抗議を考慮してもなお、限度をこえており、原告の解雇はやむをえないことであると認められる。被告は、被告会社の代表者であり、原告の仕事は代表者である被告の自宅の家政婦的仕事であり、被告の自宅での言動は、被告個人としての言動であるとともに、家政婦的仕事をしている原告に対する被告会社代表者としての職務上の言動という面があり、原告に対する被告の違法と判断された行動、暴行については被告会社も民法44条1項(商法261条3項、78条2項による準用)により、被告と連帯して損害賠償責任を負うものである。慰謝料額は、被告の言動、その期間、ボーナスの不支給及び被告の言動への原告の対応を勘案すると、80万円をもって相当額と認められる。被告が8月7日に原告に加えた暴力について、違法性を認めることができることはいうまでもなく、これにより被告は原告が被った損害を賠償すべき義務を負う。しかし、右は原告の挑発に対してなされたものであり、特に前記性的行為と因果関係のあるものとは認められない。なお、右暴行につき、原告の挑発があったからといって被告の暴行の違法性や責任が阻却されるものではない。

強姦未遂については、これを認めるには証拠が十分ではない。
原告は平成3年3月27日午後2時ころ被告がスラックスを下着もろともひきずり下ろし、強姦しようとした旨主張し、原告本人の供述中にそれに沿う部分があり、(人証略)にも原告からその旨の相談を受けたとの証言部分がある。しかし、原告はその際パンティストッキングをはいており(原告本人の供述)、パンティストッキングを脱がせることは難しいこと、原告は同日買い物にいき、翌日からも通常通り勤務を続けており、また、原告の当初からの相談役であるAや原告の、ボーナスや昼食時の雇用条件もしくは8月7日の暴行に対する抗議のときにも強姦未遂行為の話はでておらず、原告において強く意識してはいなかったと考えられること、被告は原告が自宅に宿泊するときは事務所に泊まっていたこと、その他原告の供述が全体的にオーバーであることを考えると、原告の前記供述について更に信憑性につき立証が必要であり、原告の供述から直ちに強姦未遂行為を認めることは難しく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。(証拠・人証略)中に、3月27日の前と後に分けて、(証拠略)の食費の対比をなしているが、右の結果は直ちに前記結論を左右するものではない。
適用法規・条文
02:民法44条1項,02:民法709条(06:商法261条3項,78条2項準用)
収録文献(出典)
労働判例650号8頁、奥山明良・労働判例656号6頁、労働法律旬報1344号59頁
その他特記事項
本件につき、最高裁判決が出ている(平成11年7月16日社長側上告棄却)。なお、本件は初めて、「セクシュアルハラスメント」という用語が用いられ、不法行為の一類型と明言された例である。
控訴審(No.95)最高裁(No.138)参照。