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東京セクシュアルハラスメント(小学校)慰謝料請求事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
東京セクシュアルハラスメント(小学校)慰謝料請求事件
事件番号
東京地裁八王子支部 − 平成5年(ワ)第2423号
当事者
原告個人1名

被告個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年04月15日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
原告は、昭和16年生まれの女性であり、昭和55年4月から小学校の教師を務め、昭和59年4月から平成6年3月までA市立B小学校(以下「本件小学校」という。)で勤務していた。被告は、昭和12年生まれの男性であり、平成元年から同5年3月まで本件小学校の校長を務めていた。

平成3年1月22日、原告は被告とともに八王子市の委員会委員を任命されており、その委員会主催による中学校の見学会に参加後、有志による懇親会が開催され、その帰路、被告は性器を露出して原告が止めるよう何度も言ったにもかかわらず、手を取って握らせた(争点1の(1))。

原告は、性的行為を拒否したことにより被告が教育上のことで原告を無視したり、人事上の不利益を課したと感じた(争点2)。
そこで、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として金200万円の支払を求め、提訴した。
主文
一被告は、原告に対し、金50万円を支払え。

二原告のその余の請求を棄却する。
三訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
判決要旨
争点1に関する原告と被告の各供述を比較すると、原告の供述は、授業を見学してから、被告が行ったとされる卑猥な行為及びその前後までの状況が具体的かつ詳細であり、終始一貫しているのに対し、被告の供述は、居酒屋を出るまでの供述が比較的詳細であるのに、原告と被告が別れたときの状況については具体的な供述がなく、不自然な感が否めない。特に、被告は、駅前に原告のオートバイが置いてあったことを知らなかったと供述するばかりか、原告の帰宅方法について全く関心を示していなかったという態度をとっており、また、被告の帰宅方法についても、「確かタクシーで帰ったと思います。」と供述するのみであり、駅のどのあたりでタクシーに乗ったのかも明らかにしておらず、駅で原告と被告が別れた時点でのできごとについて、ことさらに供述を避けている傾向が窺われる。
右検討の結果並びに後記説示のとおり、原告は被告の原告に対するその後の態度・言動の一部を性的嫌がらせと受け止めていることなどに照らせば、原告の供述はそれ自体、また、被告の供述と対比しても、全体として信用することができるところ、右供述によれば、前記争点1(1)の卑猥な行為の事実を認めることができる。これに反する被告の供述は右のとおり信用することができず、他に右認定を履すに足りる証拠はない。もっとも、原告はその後相当期間、右行為について被告を批判したり、公にしたりはしていないけれども(原告本人)、事柄の性質上、右原告の態度は無理もないことであるから、このことは右認定を左右するものではない。原告に対する人事は不相当ではなく、また不利益でもないから争点2についての原告の主張は理由がない。(なお、仮に原告主張の各嫌がらせ行為に職務性が認められるとしても、公務員個人たる被告は右行為につき不法行為責任を負うものではない。)被告が原告に対して行った卑猥な行為の態様、原告と被告の社会的地位、年齢、職場における関係その他一切の事情を考慮すれば、被告の右不法行為によって原告の被った精神的苦痛を慰謝するには金50万円をもって相当とする。
適用法規・条文
02:民法709条
収録文献(出典)
判例時報1577号100頁、判例タイムズ924号237頁
その他特記事項
なし。