判例データベース
A学園事件(控訴事件)
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- A学園事件(控訴事件)
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成10年(ネ)第1925号、東京高裁 − 平成10年(ネ)第5630号、東京高裁 − 平成13年(ネ)第778号
- 当事者
- 控訴人 学校法人 A学園
被控訴人 個人 1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年04月17日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(控訴人敗訴)、棄却、棄却
- 事件の概要
- 控訴人(かつ申立て人・付帯被告訴人)A学園は、私立専修学校及び私立各種学校を設立することを目的とする学校法人であり、被控訴人(かつ相手方・附帯控訴人)は、昭和62年3月にA学園に期間の定めなく事務職として採用され、同一グループB学園の教科編集部に出向した。A学園の給与規定には、賞与の支給要件として支給対象期間の出勤率が90パーセント以上であることが必要とされており、(以下、「90パーセント条項」という)、支給日、支給の詳細については、その都度「回覧」にて知らせることとされていた。ところで、A学園の就業規則には特別休暇の規定があり、結婚休暇、忌引き休暇のほか、配偶者の出産、産前産後の休暇、生理休暇があり、産前産後休暇のみが無給とされていた。また、育児休職を申し出ない社員に対する勤務時間短縮制度が規定されていた。被控訴人(かつ相手方・附帯控訴人)は平成6年7月8日出産後、8週間の産後休暇を取得、職場復帰して子が満一歳になるまで上記勤務時間短縮制度を請求し利用したところ、「回覧文書」において、産後休業日数及び勤務時間短縮措置による育児時間をも欠勤日数に算入するという取扱いが定められた。このため、被控訴人(かつ相手方・附帯控訴人)は、各賞与支給対象期間における出勤率がいずれも90パーセントに達せず、いずれの賞与も支給されていなかった。(以下「本件取扱い」という。)そこで、被控訴人(かつ相手方・附帯控訴人)は、A学園及びB学園に対して、賞与、慰謝料と弁護士費用を請求し、選択的に不法行為による損害賠償を請求した。これに対し、東京地裁は請求一部認容(原告一部勝訴)の判決を下した。
本件は、判決に対し、許容部分を不服とする控訴人が、控訴するとともに、仮執行の原状回復等を命ずる裁判の申立てをして、仮執行宣言に基づき支払った一四五万六七七一円及びこれに対する支払日後の平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求めたのに対し、棄却部分を不服とする被控訴人が附帯控訴したものである。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 控訴人における賞与は、労働者の対償としての賃金性を有するものであり、たとえ控訴人主張の功労報償的、利益分配的な一面のあることが否定できないとしても、そのことをもって使用者である控訴人の裁量に委ねられた恩恵的・任意的給付であるということはできない。したがって、その支給要件を定める給与規程及び回覧文書の規定の合理性を検討するに当たっては、控訴人における賞与を賃金に準ずるものと見て検討することを要するものというべきであるとした原判決の判断に誤りはない。産前産後休業については、その取得を労働者の責めに帰すべき事由による不就労と区別し、これを取得した女性労働者が解雇その他の労働条件における不利益を被らないように種々の法的規制がなされているのであって、これは、産前産後休業を取得することによって不利益を被ることになると、労働者に権利行使を躊躇させ、あるいは、断念させるおそれがあり、法が権利、法的利益を保障した労基法六七条趣旨を没却させることになるからにほかならない。そうすると、産前産後休業の取得を労働者の責めに帰すべき事由による不就労と同視して、これを取得した女性労働者に同様の不利益を被らせることは、法が産前産後休業を保障した趣旨を没却させるものであり、法の容認しないところというべく、そのような取扱いは、公序良俗に違反して違法・無効となると解するのが相当である。労基法六七条、育児休業法一〇条の趣旨は、労働者が所定の育児時間を取得することは、労働者の責めに帰すべき事由による不就労と区別されなければならず、保障されるべきであることを明確にすることにあると解するのが相当である。したがって、事業主が同条に基づいて就業規則等に育児のための勤務時間短縮措置を規定し、労働者がこれにより育児時間を取得したところ、事業主が育児時間の取得を労働者の責めに帰すべき事由による不就労と同視して、労働者に同様の不利益を被らせることは、法が育児時間を保障した趣旨を没却させるものであり、法の容認しないところをいわざるを得ず、そのような取扱いは、公序良俗に違反して違法・無効となると解するのが相当である。本件九〇パーセント条項の趣旨・目的は、前記のとおり、従業員の出勤率を向上させ、貢献度を評価することにあり、もって、従業員の高い出勤率を確保することを目的とするものであって、この趣旨・目的は一応の経済的合理性を有しているが、その本来的意義は、欠勤、遅刻、早退のように労働者の責めに帰すべき事由による出勤率の低下を防止することにあり、合理性の本体もここにあるものと解するのが相当である。産前産後休業の期間、勤務時間短縮措置による育児時間による育児時間のように、法により権利、利益として保障されるものについては、そのような労働者の責めに帰すべき事由による場合と同視することはできないから、本件九〇パーセント条項を適用することにより、法が権利、利益として保障する趣旨を損なう場合には、これを損なう限度では本件九〇パーセント条項の合理性を肯定することはできない。
したがって、本件九〇パーセント条項中、出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入し、出勤した日数から産前産後休業の日数及び勤務時間短縮措置による育児時間を除外することと定めている部分(給与規定と一体をなす本件各除外規定によって定められている部分)は、労基法六五条、育児休業法一〇条、労基法六七条の趣旨に反し、公序良俗に違反するから、無効であると解すべきである。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法
- 収録文献(出典)
- 労働判例803号11頁 労働経済判例速報1766号14頁 判例時報1751号54頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成7年(ワ)第3822号、東京地裁 − 平成7年(ワ)第15875号 | 請求一部認容(原告一部勝訴) | 1998年03月25日 |
東京高裁 − 平成10年(ネ)第1925号、東京高裁 − 平成10年(ネ)第5630号、東京高裁 − 平成13年(ネ)第778号 | 控訴棄却(控訴人敗訴)、棄却、棄却 | 2001年04月17日 |
最高裁 − 平成13年(受)第1066号 | 上告人敗訴部分破棄・差戻し | 2003年12月04日 |
東京高裁 - 平成15年(ネ)第6154号 | 一部認容・一部棄却(上告) | 2006年04月19日 |