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社団法人建設業S会事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
社団法人建設業S会事件
事件番号
奈良地裁 − 平成6年(ワ)第419号
当事者
原告 個人1名
被告 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1995年09月06日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴) 一部棄却
事件の概要
原告は、大卒後、平成5年4月から社団法人建設業S会(以下S会」という。)に勤務するようになり、3ヵ月の試用期間を経て、同年7月から本採用職員として勤務していた。被告はS会の常勤の役員であった。

原告は被告より誘われた講演会後、被告に太股や手を触られたが、拒絶はしなかった。また、被告に誘われて休暇をとり、別荘に行った際、そこで被告から胸、腰を触られたり抱きしめられたりした。

その後、被告は、個人的な写真の整理、作文の提出を命じた。原告は、勤務を辞めたいという意思が固まり、平成6年9月30日をもって退職した。

原告は被告から不法行為(いわゆるセクシュアルハラスメント)を受けたとして民法709条に基づき、被告に対し、損害賠償として、633万2000円等の支払を求めて、提訴した。
主文
一 被告は原告に対し、一一〇万円及びこれに対する平成六年九月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
判決要旨
争点に係わる被告の供述が、その核心部分において不合理であること、原告が供述しているような事実(講演会に誘われた後、太ももや手をさわられたり休暇中に別荘で抱きしめられたり、頬ずりされたこと)があったとされる直後に、原告の同僚職員が、原告から直接そのような事実があったと聞かされていること、原告があえて創作して前記のような供述をすべき理由のないことからすると、原告が供述しているような事実があったものと認めるのが相当である。そして、被告の行為が、原告の明確な拒絶の態度にあっていないとはいえ、その意思に反するものとして不法行為を構成することは明らかであり、同じく被告の言辞も、その内容、K会における被害と原告との関係、性差、年齢差等に照らすと、原告に著しい不快感を抱かせるものとして不法行為を構成するというべきである。原告は、被告の右不法行為の対応をとらえて、個人的な写真の整理をさせたり作文の提出を指示したりしたこと自体が新たな不法行為を構成し、その退職との間に相当因果関係があると主張するが、写真の整理自体は訴外Bから命じられたものであって、そこに被告による報復的色彩を看取することはできないし、同時期に採用された職員のうち原告だけが4年制大学の卒業生であったこと、伊勢の別荘へは原告だけでなく訴外Bも同行していたこと等からすると、被告の供述中、採用当初から原告を訴外Bに次ぐ幹部職員として育成しようとしていたとする部分は、あながち信用できないではなく、原告に対する作文の提出指示も、その研修の一環としてされたものと理解することができる。そして、「おいといてほしい」との言葉についても、それがどのような文脈で用いられたのか、原告の供述自体によっても定かではなく、前認定の不法行為後の被告の対応を原告に向けられた新たな不法行為によって、原告が退職を余儀なくされたということもできない。
したがって、原告の右主張は、採用することができない。原告が、就職難といわれる時期に大学を卒業し、純粋な気持ちのまま初めて就いた職場において、被告から前示のような不法行為を受けたことや被告の後の対応等、本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、原告に対する慰謝料額は、100万円と認めるのが相当である。本件事実の難易、認容額、審理の経過に照らすと、前示不法行為と相当因果関係にあるものとして被告に賠償を求めうる弁護士費用の額は、10万円と認めるのが相当である。
適用法規・条文
02:民法709条、710条,07:労働基準法
収録文献(出典)
判例タイムズ903号 163頁
その他特記事項