判例データベース
Sエレクトロニクスマーケティング賃金等請求事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- Sエレクトロニクスマーケティング賃金等請求事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成7年(ワ)第1997号、大阪地裁 − 平成7年(ワ)第10334号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 甲事件被告 Sライブエレクトロニクス販売株式会社承継人
被告 乙事件被告 Sエレクトロニクスマーケティング株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年02月23日
- 判決決定区分
- 一部認容、一部棄却(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 被告は、昭和二三年五月一八日に設立された通信機器器具の販売等を目的とする会社であり、シャープ株式会社の関係会社である。シャープライブは昭和四一年二月、大阪シャープから営業の一部譲渡を受けて浪速シャープ電気株式会社(以下「浪速シャープ」という。)の商号で設立され、さらに、平成四年四月、シャープエレクトロニクスから営業の一部譲渡を受けるなどしてシャープライブに商号変更し、平成一〇年一〇月一日、被告に吸収合併された。(以下、シャープ株式会社及び被告を含む関係会社を総称するとき「オールシャープ」という。)
原告は、高卒の学歴で昭和三八年七月に大阪シャープに不定期採用(非卒業時採用)で入社したが、昭和四一年に浪速シャープに移籍となり、平成七年二月末日までシャープライブに在籍し、その後平成七年三月一日付けで被告に移籍し、現在被告の近畿統括営業部西日本受注センターに勤務している。原告が、被告に移籍するにあたっては、シャープライブでの在籍期間を被告での在籍期間として通算するなど、労働条件はすべて原告とシャープライブとの労働契約をそのまま被告が承継するものとされた。
被告とシャープライブでは、同一の賃金制度が採用され、従業員の従事している仕事内容、能力発揮度及び年齢に基いて各従業員の給与を決定することを基本としており、これを「職種別賃金制度」と称している。
オールシャープでは適用される賃金制度やその運用は同一であるところ、オールシャープでにおいても、男女間格差が存在し、高卒採用者は入社後二五歳までは男女間で賃金格差はあまり見られないが、男女間賃金格差は年齢が上がっていくほど鮮明になり、女性は例えば三四歳になると、なかなか格付けが上がらなくなる。不定期採用者の男女間も同様である。原告は、同一条件男性の平均賃金格付けと比べ、低い格付けに留め置かれたままであったと主張し、女性であることを理由に被告から仕事の配置や昇格及び賃金に関して不利益な差別を受けたとして、昇格した地位の確認及び債務不履行または不法行為を理由とする損害賠償を求めて、提訴した。 - 主文
- 一 被告は原告に対し、金五五〇万円及びこれに対する平成七年三月一八日から支払い済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 原告の格付が、シャープライブにおける同一条件男性の平均格付と比して著しく低いものであることは前記認定のとおりであり、これに関して、原告は、その原因は、仕事配置のうえでのシャープライブないし被告による男女差別であると主張しているところ、シャープライブにおいては、年齢が高齢になるに伴い男性従業員の方が女性従業員より、より上位に格付されている。(したがって、男性従業員の方が一般的には早く昇格している。)との傾向が認められることや人事制度が、現に男女差別的運用がなされているとまでは認められないとしても、恣意的に運用される可能性を孕んでいること、職種別賃金制度のもとでは基本的にはいかなる仕事に配置されるか個人格付を決定するうえでとりわけ重要であることなどと相まって、右の格差を正当とする合理的理由がない限り、原告に対する仕事配置における男女差別を推認できないものではない。原告は、入社後、格付を受けて以来平成二年度まで(入社後二七年間)、M4又はB3にとどめ置かれたのであるが、男性の場合、原告と同一年齢のオールシャープ高卒男性社員でM4に格付された者は、昭和四八年度には一名となり、昭和五三年度以降は存在が認められないから、昭和五二年度までに存在したM4に格付されていた男性が仮に原告と同期に入社した者であるとしても、殆どの男性は入社後一〇年(高卒で定期入社の場合は一四年)までに、遅くとも一四年(高卒で定期入社の場合は一八年)までに昇格したものと推認される。右男性が不定期採用の場合には、より短期間で昇格したことも考えられる。このように男性については、原告と同様にM4又はB3に一八年を超えて留め置かれた例が認められず、殆どの男性は遅くとも一八年までにはM5又はB4に昇格したものというべきである。
原告は、M4又はB3の職務について、ミスや苦情を受けることは多いとしても、大きな失敗を犯したことはなく、仕事に対する意欲はあって、それなりの努力はしてきたことを認めることができ、平成三年にB4に昇格し、その後、その職務を遂行しており、右昇格が検討された平成二年に担当職務が変わったが、その前後に原告の能力が特段に向上したという事情もなく、別紙分類基準に記載の職務内容もB4にとりわけ高度なものを要求しているといえないところから、能力自体は、既にそれ以前からB4に昇格させても差し支えない程度であったものというべきである。
そうであれば、原告が、男性の最も長期の期間より一〇年程度も長い二七年間M4またはB3に置かれたことは、原告の能力や労働意欲からこれを説明することができず、前述の男女格差の原因について考察したような女性を単純労働の要員としてのみ雇用するという風潮を反映したものといわざるを得ず、その合理性を肯定することはできない。したがって、原告の昇格の遅延は、男女を理由とする差別であるというべきである。ところで、仕事の配置は、従業員各人の適性、発揮した能力、仕事の出来栄え等を考慮しながら段階的に上位の仕事に移行させて行くというのが通常であるところ、昭和五四年に業務課に配属されて後の原告の勤務状況を見る限りでは、原告は、より上位へ格付されることが可能な職種に配置されていたにもかかわらず、与えられた仕事を十分に果たし、上位格付を可能にするような能力を発揮したとは、必ずしもいうことができないことからすれば、昇格がある程度遅れてもやむを得ないところがある。そこで、原告の勤続年数や、業務課での仕事において、原告自身もミスの減少を改善目標とするほどで、その勤務状況は、与えられた仕事を十分に果たしたとはいえなかったが、昭和五年度には自己改善目標に従って改善の傾向があったと認められること(証拠略)、同年に担当職務を変更していることなど諸般の事情を考慮して、遅くとも、昭和六〇年四月にはB4に昇格させるべきであったと認める。
昇格について、被告の職種別賃金制度のもとでは係長への昇進は、S3に格付されることが必要とされており、原告は未だB4の格付でしかなく、その格付が不当とは認められないから、少なくとも原告に関しては、未だ係長に昇進しないことをもって、これが男女差別によるものとは認められない。査定については、原告の勤務状況はミスが多いなど決して良好ではなかったのであり、これに照らすと、従前原告がマイナス査定を受けてきたことは必ずしも不当とはいえない。昇格について男女差別があったことは、男性との比較での認定であり、その差別から直ちに査定差別が肯定できるわけではなく、また、平成五年度以降はマイナス査定がなくなったという不自然さについては、被告において訴訟継続等を予想し、紛争の拡大を恐れてマイナス査定を差し控えたということも十分考えられ、更には、原告自身も、当然ながら、社長に不当を訴えて後は、以前以上に慎重に職務に取り組むようになったであろうから、その結果マイナス査定がなくなったと考えることができる。したがって、平成四年度以前の査定をすべて不当であったと段ずるには、未だ証拠が足りないというべきである。シャープライブは、昭和六〇年四月から平成二年三月まで、原告をB3の格付のままとどめ置いたが、これは男女を理由とする差別といわざるをえないものである。男女という性を理由に格付を差別し、その結果賃金に差を設けることは、労働基準法三条及び四条に反するものであり、被告の右差別扱いは不法行為を構成する。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法3条、4条,02:民法709条、710条
- 収録文献(出典)
- 労働判例783号71頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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