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U工業男女賃金差別損害賠償請求事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- U工業男女賃金差別損害賠償請求事件
- 事件番号
- 岡山地裁 − 平成5年(ワ)第411号
- 当事者
- 原告 個人 19名
被告 U工業株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年05月23日
- 判決決定区分
- 一部認容 一部棄却(原告勝訴)
- 事件の概要
- 本件は、被告の従業員ないし従業員であった原告らが、被告に対し、被告が、原告らがいずれも女子であることを理由に、各原告とそれぞれ勤続年数、年齢を同じくする男子従業員に比較して、賃金等の支給につき不合理な差別をしたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、昭和63年から平成11年までの間に右差別がなかったとすれば支給されたはずの賃金、一時金、退職金(退職者につき)と現実に支給された賃金、一時金、退職金との差額相当損害金(昭和63年から平成7年上期までの一時金については、主位的に基本給及び計算上の係数をいずれも右差別がなかったとすれば適用されたはずのものに補正して算出される額、予備的に基本給のみを補正して算出される額)の支払(附帯請求は不法行為の日以後である右賃金等の支給された各年度の年度末である3月29日[ただし昭和63年4月から平成3年3月までに支給された賃金等に相当する損害金については平成4年3月28日、平成4年4月以降に支給された退職金については各支給日の翌日]から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)を求めた事案である。
- 主文
- 一 被告は、別紙認容額目録「氏名」欄記載の各原告に対し、各原告にそれぞれ対応する同目録「認容額」欄記載の各金員及びうち各原告に対応する同目録1ないし10欄記載の各金員に対する各同欄記載の各年月日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ニ 原告15名のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 男女間に格差(男子に有利で女子に不利な格差)が存在する場合には、それが不合理な差別であることが推認され、使用者側で右格差が合理的理由に基づくものであることを示す具体的かつ客観的事実を立証できない限り、その格差は女子であることを理由として設けられた不合理な差別であると推認するのが相当である。職務の区別の不明確さ及び男女の配置の区別のあいまいさに比して、2表適用従業員すなわち女子は、1表適用従業員すなわち男子の役8割弱の基本給しか支給されていないのであるから、その格差は過大というべきであり、使用者に賃金決定の裁量があるとしても、その裁量を逸脱したものと言わざるを得ず、加えて、1表と2表は、昭和56年以前は「男子賃金表」、「女子賃金表」と性別により区別されていた歴史的な背景からすると、本件においては、男女の賃金格差に合理的な理由があるとはいえない。
したがって、本件において、昭和63年から平成7年10月までの基本給については、不合理な男女差別が存在したものと認められる。
また、同基本給を基に算出・支給されてきた再雇用賃金、世帯手当、一時金、退職金についても、不合理な男女差別が存在するものと認められる。平成7年11月以降の基本給は、男女間に不合理な格差が存在する同年10月の基本給が基準となっていることから、不合理な格差を承継しているものと認められる。
また、不合理な格差が存在する基本給を基に算出される世帯手当、一時金、退職金についても、不合理な格差が存在すると認められる。賃金表が労使交渉の合意のもとに作成されているとしても、その内容が不合理な差別を含むこと自体を否定し、あるいはこれを適法化するものではない。
また、組合員は、一般的に労使交渉の合意内容につき拘束を受けるとしても、その内容が不合理な賃金の差別を含むものであり、後述するように、労働基準法に違反するような場合にまで、これに拘束されると解するのは妥当ではないし、合意内容に違法性が存する場合に、不法行為による損害賠償請求という司法的救済を求めることを妨げるものではない。労働基準法4条は、男女同一賃金の原則を定めているところ、使用者が女性従業員を男性従業員と同一の労働に従事させながら、女性であることのみを理由として賃金格差を発生させ、かつ、右賃金格差を是正することなく、右の差別状態を維持した場合、右の使用者の行為は、労働基準法4条に違反する違法なものとして不法行為を構成する。
同一の労働とは、労働基準法4条が男女の雇用平等、特に賃金の平等原則を定めたものであることから、形式的に職務内容及び職責を同じくする労働のみならず、職務内容、職責などに関して職務評価等を通じて同価値と評価される職務をいうと解すべきである。
本件においては、賃金等に明確な格差の生じている男子従業員と女子従業員という区分においては、その職務内容及び職責等は明確に異なるところがあるものとは認められない。したがって、被告における男子従業員と女子従業員は同価値と評価される職務に従事しているものといえるのであって、被告が、原告らの賃金等につき、女性であることのみを理由として、男子従業員の賃金等との間に格差を発生させ、かつ、これを是正することなく維持していることは、労働基準法4条に違反する不法行為に該当する。被告における賃金等は、基本的に各従業員の年齢及び勤続年数を基準として定められていることから、各年度各月又は各期において各原告と同勤続年数、同年齢の男子従業員に支給されるべき賃金等と各原告らに実際に支給された賃金等との差額が、本件不法行為により原告らに生じた損害となる。被告の消滅時効の主張等については、これらの主張を許すことにすれば、それにより訴訟の完結を遅延されることとなるものと認められるので、民事訴訟法157条1項により、却下するのが相当である。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法4条,03:民事訴訟法157条1項
- 収録文献(出典)
- 労判814号102−131頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
岡山地裁 − 平成5年(ワ)第411号 | 一部認容、一部棄却(原告勝訴) | 2001年05月23日 |
広島高裁 - 平成13年(ネ) 第146号、広島高裁 - 平成14年(ネ) 第203号 | 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却(上告) | 2004年05月28日 |