判例データベース
U社男女賃金差別損害賠償請求控訴事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- U社男女賃金差別損害賠償請求控訴事件
- 事件番号
- 広島高裁 - 平成13年(ネ) 第146号、広島高裁 - 平成14年(ネ) 第203号
- 当事者
- 被控訴人(附帯控訴人)個人19名
控訴人(附帯被控訴人)株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年05月28日
- 判決決定区分
- 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却(上告)
- 事件の概要
- 本件は、控訴人(被告)の従業員である被控訴人(原告)が、女性であることを理由として、勤続年数、年齢を同じくする男性従業員に比べて賃金等につき不合理な差別を受けたと主張し、不法行為に基づく損害賠償として、被控訴人に対して実際に支払われた額と差別がなければ支払われたはずの賃金、一時金、及び退職者については退職金との差額相当額の支払いを求めた事件の控訴審である。
第一審の岡山地裁では、被告会社では賃金表1表は男子に、2表は女子にそれぞれ適用されているが、男女の職務の区別、配置の区別があいまいであるのに女子は男子の8割弱の基本給しか支給されていないから、その格差は過大であり、男女の賃金格差に合理的理由があるとは認められず、基本給、一時金、退職金等についても男女差別を認め、労働基準法第4条に違反する不法行為に該当するとして、原告と同勤続年数、同年齢の男子従業員の賃金との差額の支払いを命じた。
これに対し、控訴人は、判決は賃金表という制度自体の有効性の問題と賃金表の個別適用の問題を混同していること、男女の「職務二分論」によれば男女の賃金格差には合理性が認められること、賃金表は原告が属する労働組合と被告の間で合意・妥結しているものであることを主張して控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は、別紙認容額目録「氏名」欄記載の各被控訴人に対し、各被控訴人にそれぞれ対応する同目録「認容額」欄記載の各金員及びうち各被控訴人に対応する同目録1ないし13欄記載の各金員に対する各同欄記載の各年月日からそれぞれ支払い済みまでの年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを7分し、その6を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。
5 この判決は、2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 控訴人の賃金決定要素は、性差、年齢、勤続年数の3つであり、職務・職種によって決められたものとは認められないし、採用の方式や手続き、職務の指定についての男女の差異はない。また、男性従業員と女性従業員の労働内容は明確な区分は認められず、結局のところ控訴人における賃金格差は、単に性差のみを理由として区別されたものと推認され、何ら合理性のない差別といわざるを得ない。
労働基準法第4条は、合理的理由なく、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをすることを禁じている。したがって、女性であることのみを理由として賃金格差のある賃金制度を定め、維持することは違法であり、その適用を受けた女性従業員に対する不法行為を構成するものと解される。
労使交渉により賃金表が作成され、被控訴人の賃金が確定されたとしても、不合理な差別のある内容で賃金等が支給されることについて被控訴人が容認していることにはならず、賃金表が労使合意のもとに作成されているとしても、その内容が違法であれば、民主的手続きを経たことによってそれが適法になるわけではない。
労働組合の組合員は、一般的には労使の合意内容に拘束を受けるとしても、その内容が労働基準法第4条に違反するような場合には、個別の労働者は会社の不合理な差別という不法行為による損害賠償を請求することができると解すべきである。
本件は、男性従業員には適法に賃金が支払われており、労働基準法第4条に違反する女性従業員の賃金等に対する救済についての同法の趣旨からすると、被控訴人には、労働基準法第13条を類推適用して、勤続年数、年齢において同等の男性従業員との賃金等の差額相当の財産的損害が生じたと認めるのが相当である。
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、被害者等が損害及び加害者を知った時であるが、本件においては労働組合が「男女差別をなす現行賃金体系の差別を廃止すること」を申し入れた時点で被控訴人は加害者及び損害の発生を知っていたものと推認されるから、提訴日から遡って3年以前に被控訴人に生じた損害に係る賠償請求権は時効により消滅している。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法4条
07:労働基準法13条
02:民法709条
02:民法724条 - 収録文献(出典)
- 労働判例884号13頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
岡山地裁 − 平成5年(ワ)第411号 | 一部認容 一部棄却(原告勝訴) | 2001年05月23日 |
広島高裁 - 平成13年(ネ) 第146号、広島高裁 - 平成14年(ネ) 第203号 | 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却(上告) | 2004年05月28日 |