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地公災基金東京都支部長事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
地公災基金東京都支部長事件
事件番号
東京地裁−平成15年(行ウ)第667号
当事者
原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金東京都支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年12月06日
判決決定区分
棄却(確定)
事件の概要
 原告は昭和63年に大学を卒業後東京都に採用され、平成10年5月1日付けで海外事務所係長として単身赴任した女性である。同年8月1日、原告は事務所長Aらと共に親善野球大会に東京都スタッフとして出席し、その終了後ビデオを見せるためにAを自宅に案内した。原告の自宅に入った後、Aは原告に抱きつくなどした上、原告の意思に反して、乳房や下半身を触ったり、舐め回すなどした。その後、原告の自宅において共にビデオを見るなどした後、共に夜景を見に行き、喫茶店で休憩した後、Aは原告を自宅まで送った。

 原告は同月4日、Aに対して本件暴行について抗議し、その後5、7,11日に勤務終了後、Aと2人きりで食事をしたり、Aを自宅に招いて性的関係を持ったりした。更に原告は、出張中にAと性的関係を持ち、9月11日までに数回Aと性的関係を持つなどの関係が続いたが、その後、両者の関係が悪化し、10月末ころには関係は破綻した。

 原告は、Aとの関係が悪化し始めた9月末頃から体調を崩し、週1回程度のソーシャルワーカーによるカウンセリングを受けると共に、医師による投薬、カウンセリングを受けた。原告は、その後平成11年6月にAが帰任するまで、Aの下で勤務をし、12年3月に帰任したが、同年5月17日以降病気休暇をとり、15年6月30日休職のまま退職した。
 原告は、被告に対し、上司から性的暴行を受けた結果発症したPTSD等の精神障害が、引き続きその上司の下で勤務することによって悪化し、その後も適切な対応がなされなかったことによって増悪した結果業務に従事できない状況に至ったとして、地方公務員災害補償法に基づき公務災害認定を請求したところ、被告がこれを公務外災害とする処分をしたため、処分の取り消しを求めた。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 地方公務員が災害を受けた場合に、それが公務災害として認定されるためには、当該災害が任命権者の支配管理下にある状況で発生し(公務遂行性)、当該災害と公務との間に相当因果関係が認められること(公務起因性)すなわち、公務遂行性と公務起因性の2要件を充たす必要がある。

 本件疾病が公務災害によるものであるというためには、当該公務員が実質的な使用者である任命権者の支配下にある場合に当該災害が発生することが必要であると解するのが相当である。

 本件野球大会は、土曜日で事業施設外で行われたものではあるが、任命権者の支配下にあったといえるが、その終了から1時間半を経過した後に原告の自宅で発生した本件暴行は、公務とは無関係な勤務時間外かつ事業施設外の行為であり、原告がAを自宅に招き入れるに至った行為に任命権者の支配が及んでいたということはできない。地方公務員災害補償法の性格に照らせば、公務遂行中といえるためには公務としての支配従属関係にあることを要するものと解するのが相当であるから、本件性的暴行は公務遂行上の事故ということはできず、本件においては公務遂行性の要件が欠けているというべきである。

 地方公務員災害補償制度の特質に照らすと、公務起因性の認定においては、単に当該疾病が業務遂行中に発生したという条件関係の存在だけでは不十分であり、当該疾病が業務に内在ないしは通常随伴する危険の現実化と認められる関係があって初めて公務起因性があると認めるのが相当である。
 これを本件についてみると、原告は性的暴行発生時に任命権者の支配下にあったとはいえず、本件性的暴行は公務遂行上の事故ということはできない。そうだとすると、本件性的暴行と本件疾病との間の相当因果関係の存否について判断するまでもなく、原告の職務と本件疾病の発症との間には、公務起因性が認められない。
適用法規・条文
99:その他 地方公務員災害補償保険法
収録文献(出典)
労働判例887号42頁、判例時報1890号148頁
その他特記事項