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千葉自動車販売会社事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
千葉自動車販売会社事件
事件番号
東京地裁 − 平成14年(ワ)第22130号
当事者
原告 個人1名
被告 個人1名(A)

被告自動車販売会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年03月30日
判決決定区分
一部認容、一部棄却(控訴)
事件の概要
 原告は、平成14年3月に被告会社に採用された女性である。被告Aは被告会社の従業員であって、原告が採用された当時、原告の配属先の店長であった。

 同年3月、被告会社で研修が開催され、その期間中原告、被告A、訴外Bが参加した。

 2日目の研修終了後、前日と同様3人は共に夕食をとった後、ホテルに戻って被告Aの部屋で二次会を行った。Bが退室した後、原告は泥酔状態のまま被告Aの部屋のベッドに横たわり、意識を失ったが、被告Aが原告の着衣の下に手を入れ、胸の辺りに触れているのに気づき、手を振り払ったところ、被告Aは「いいから」と言いながら、原告をベッドの上に押し倒そうとしたため、原告は被告Aの手を振り払って部屋を出てBに助けを求め、被告Aの行為をBに訴えた。

 原告は、同年4月13日、被告会社に対し、被告Aからセクハラを受けたと申告したため、被告会社は原告と被告Aからそれぞれ事情聴取したが、被告Aは原告が泥酔し大声で騒いだため肩のあたりを押して注意した際、誤って原告の胸に触れたと主張し、両者の主張が対立した。そこで被告会社は、事実関係が明確になるまで、当面原告を一応被害者として扱うこととし、原告には有給の休職を認め、被告Aを無給の休職処分とした。被告会社は、同年5月1日付けで原告を販売店の営業スタッフへ、被告Aを総務課付き(休職)へと配置転換し、社内苦情処理窓口及びセクハラ対策委員会を設置した。

 被告会社は、原告が配置転換後も欠勤を続けたため、5月8日付けで速やかに職場復帰するよう求めたが、原告はこれに応じず、その後の被告会社の職場復帰要請にも応じなかったことから、同年8月21日をもって退職する扱いとしたことを原告に通知したところ、原告は、同年10月、被告らに対して1100万円の損害賠償を請求する訴訟を提起した。
 一方、被告Aは14年6月12日付けで、原告が主張するようなセクハラは一切ないこと、原告はセクハラに関する一方的主張を記載した文書を被告会社等に送付したようだが、これは被告Aの業務を妨害し、信用を失墜させるものであること等を理由として、原告を相手方とした1000万円の支払いを求める民事調停を簡易裁判所に申し立てたが、原告が調停期日に出頭しなかったため、調停は不成立に終わった。
主文
判決要旨
 被告Aは、宿泊先のホテルの自室のベッドで寝ていた原告の着衣の下に手を入れ、胸の辺りを触り、更に起き上がって抵抗した原告をベッドの上に倒そうとし、原告の性的自由を侵害したことが認められ、これらは民法第709条の不法行為を構成する。

 被告Aの不法行為は、研修期間中の被告会社が指定した宿泊先において、上司である地位を利用して行ったと認められるから、原告が被った損害は、被告Aが被告会社の事業の執行につき加えた損害に当たるというべきであり、被告会社は民法第715条の使用者責任を負う。

 被告会社は、原告から申告を受けた後、速やかに原告及び被告Aから事情聴取をするとともに、原告が被告Aの下で就業することがないように原告の就労義務を免除し、更に両者を別の事業所に配置転換した。また、被告会社は、新たにセクハラに関する苦情処理窓口を設置した。したがって、被告会社は、原告の使用者として、性的嫌がらせの被害者になった原告の就業環境に配慮しており、公平な立場で苦情を処理すべき義務に違反したとは認められない。
 被告Aの不法行為の態様、事後の対応、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料は50万円、不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は10万円が相当である。
適用法規・条文
02:民法709条02:民法715条
収録文献(出典)
労働判例876号87頁
その他特記事項
本件は控訴された。