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東京航空会社派遣社員事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
東京航空会社派遣社員事件
事件番号
東京地裁 − 平成14年(ワ)第22527号
当事者
原告個人1名

被告個人1名(A)

被告航空会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2003年08月26日
判決決定区分
一部認容、一部棄却(確定)
事件の概要
 原告は、平成14年3月美術大学を卒業後、広告の企画・製作等を業とする会社に就職した女性である。同社の協力会社が被告会社の社史編纂事業の一部を受託したことから、同社は社員である原告を同年4月1日から本件事業に従事させた。原告は当初は週3日、5月以降は週4日被告会社に出社して業務に従事したが、デザイン製作用ソフト操作に未熟なため、リスト作成という単純作業を命じられた。

 原告と被告Aは当初個人的な付き合いはなかったが、職場で2人きりになった際、原告が連休明けに風邪で2日間休んだことから、被告Aは「遊びすぎて変な病気をもらったんじゃないの」と述べ、また2人で食事をして原告が食事代を払おうとすると、「今度体で払ってもらうからいいよ」と述べた。また、部屋で原告、被告A、B(女性)とビールを飲んだ際、被告Aは、原告にはBに比べて色気がない、キャミソールを着ると良いなどと述べた。これらの被告Aの言動に対して、原告は不快と感じたが、被告Aが上司であるため、特に異議を申し立てることはしなかった。

 更に同年7月3日、原告と被告Aが同行したセミナーの終了後ワインバーで飲食した際、被告Aは原告に対し男性経験の有無を尋ね、バーを出た後公園のベンチで隣に座らせ、原告の手を握り、次に片方の手で原告の肩を強く抱き寄せ、もう片方の手で原告の顔を押さえて唇や頬にキスした。原告は被告Aと別れた直後、職場の知人に電話して、泣きながら被告Aの行動を告げた。

 その後、原告はもはや被告Aがリーダーを務める本件事業に従事することは無理と考え、翌日をもって辞めることとした。被告会社の広報部次長は、7月5日原告宅を訪問し、原告と両親に謝罪した。

 被告会社は原告、被告A双方から事情聴取したが、原告は羞恥心からキスについては曖昧に答えた。一方被告Aは公園で原告の手を握ったことは認めたものの、それ以外は否認した。
 被告会社は、両者の言い分を聞いた上、被告Aが公園で原告の手を握り、顔を肩にもたれさせたことは上司の行為として不適切であるとして、被告Aに対し、停職30日の処分をした。しかし、原告は被告Aが多くの事実を否定していることに納得できず、被告Aに対し民法第709条に基づき、被告会社に対し同法第715条に基づき、それぞれ連帯して損害賠償550万円の支払いを求めた。
主文
判決要旨
 被告Aは、原告が本件事業に従事していられるかどうかの決定権限を有する上司であったところ、この地位に乗じて、若い独身女性である原告に対し、性的嫌がらせと受け取れる発言をして原告に不快感を与え、更にワインバーで飲食した際、原告の男性経験の有無を問うなど原告に不快感を抱かせる発言をしただけでなく、公園で手を握ったり、肩を抱き寄せたり。キスしたりするなど性的嫌がらせ行為をしたものである。

 被告Aの一連の行為は、原告の人格権を侵害するものであって、不法行為を構成するものである。また、被告Aの行為は、上司たる職務上の地位を利用して行われたものと認められるから、被告会社は使用者として、被告Aの不法行為について使用者責任を負うべきである。
 被告Aの性的嫌がらせ行為の内容や態様、それが行われた状況、原告が受けた精神的苦痛の程度、被告が受けた社内処分等の本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば、原告の受けた精神的被害を慰謝する慰謝料は70万円とするのが相当である。また、弁護士費用の損害は7万円と認められる。
適用法規・条文
02:民法709条02:民法715条
収録文献(出典)
労働判例856号87頁
その他特記事項