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東京破産出版社事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
東京破産出版社事件
事件番号
東京地裁 − 平成13年(ワ)第23042号
当事者
原告個人1名

被告個人A、株式会社C

被告破産者株式会社破産管財人B
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2003年07月07日
判決決定区分
一部認容、一部棄却(確定)
事件の概要
 原告はフリーランスの編集者を経て平成12年4月に被告出版社に入社した女性である。原告の上司であった被告Aは、同年6月頃、「原告はおかしい」「原告が毎晩電話をかけてくる」「原告はストーカーじゃないか」と言い、原告が他の同僚と飲食を共にしたり、総務部長に相談を持ちかけたりしているのを見て「二人はできているから気をつけろ」、原告の仕事ぶりについて上司から尋ねられた際に「著者から出版拒否を言い渡される、原稿を途中で放り出す、しかも試用期間中だから、普通だったら首だろう」等の一連の発言をした。原告はこうした被告Aの言動について被告会社Cの総務部長に相談したところ、社長が被告Aを呼び出し、原告の人事に口出しをしないこと等の注意を与えた。

 同年7月、原告、被告A、別の女性が同じ階で執務することになり、被告Aと女性の騒がしい態度について編集部員から不満の声がでており、原告は編集部長に被告Aとの話し合いの場を設けることを頼んだが対応がなされなかったため、取締役に面談し被告Aらの態度について苦情を述べたが、取締役はプライベートな言動については会社は関与しないと回答した。

 原告は、被告会社Cが訴えを聞き入れる様子がなかったことから、雇用均等室に指導を要請し、雇用均等室は被告会社Cの社長と面談したが、社長は被告Aに注意し、十分な対応を行った旨述べた。
 その後平成13年7月に原告は退職したが、平成14年5月に被告会社Cが破産宣告を受けたことから、原告は、被告Aに対しては、その不法行為により精神的苦痛を受けたとして、被告管財人Bに対しては被告の監督責任を果たしていないとの使用者責任、又は就業環境調整義務違反による債務不履行責任を負うとして、慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の損害賠償を請求し、更に名誉回復のために被告Aに対して謝罪文の交付を求めた。
主文
1 被告Aは、原告に対し、金110万円及びこれに対する平成13年9月16日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告が破産者株式会社Cに対し、金113万4205円(損害賠償請求権及び遅延損害金)破産債権を有することを確定する。

3 被告破産者株式会社C破産管財人Bは、原告に対し、原告についての身元保証書を返還せよ。

4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5 訴訟費用はこれを4分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
6 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
 被告Aの一連の発言は、いずれも原告の試用期間満了間際になされたものであることに照らせば、被告Aは職場での原告の評価の低下を意図し又は認識しながらなされたものと認められ、これにより原告の名誉感情、プライバシー権その他の人格権を侵害したものであり、不法行為を構成するものである。よって、被告Aは,原告に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

 原告は、被告Aと女性が職場内でべったりで、嬌声が広がり、原告の就労環境を害したと主張するが、女性の声が大きく騒がしいため編集部員から苦情がでたことは認められるものの、私的な男女関係を職場に持ち込んで編集部員の職務を妨害し、不法行為を構成するに至っていることまでは認められないから、この点に関する原告の主張は理由がない。

 被告Aの一連の発言の相手方はいずれも社内関係者であり、上司としての職務上の地位を利用して職場での原告の評価の低下を意図又は認識してなされたものといえるから、被告会社Cの職務行為と密接な関係を有する行為と認められる。被告会社Cは、編集部の職場環境の維持については編集部員の自主性に委ねていたというが、被告Aの職場での人格権侵害等の言動について十分な指導、監督を行っていたとは認められず、被告Aの選任、監督につき相当の注意をしたとはいえない。したがって、被告Aの使用者である被告会社Cは,民法第715条により、原告に対し、被告Aと連帯して、原告が被告Aの発言によって受けた損害を賠償する責任を負うというべきである。

 原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、不法行為の態様、違法性の程度、その他本件における一切の事情を勘案すると、100万円が相当であり、弁護士費用相当額の損害については、10万円が相当である。
 被告Aの一連の発言による不法行為の態様、程度等を考慮すれば、原告の被った損害は金銭賠償をもって補填されるものと認められ、これに加えて謝罪文の交付を命ずる必要はないというべきである。
適用法規・条文
02:民法709条
02:民法715条
収録文献(出典)
労働判例860号64頁
その他特記事項