判例データベース

市立小学校長事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
市立小学校長事件
事件番号
東京地裁 − 平成5年(ワ)第2423号
当事者
原告個人1名

被告個人1名
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年04月15日
判決決定区分
一部認容、一部棄却
事件の概要
 市立小学校教師である原告が、勤務する小学校の校長である被告に、平成2年から3年にかけて、いずれも酒席の後において、被告の性器を露出しこすりつける、モーテルに誘う、原告の肩を掴み首筋に熱い息を吹き掛けるなどの卑猥な行為や性的要求を受け、原告がこれらを拒絶する態度をとったところ、被告が従来原告に対しとっていた好意的な態度(人事について原告の希望を容れ、教育上の意見に耳を傾け、仕事振りを賞賛する)や他の教師に対する態度とは著しく異なる冷淡な態度をとり、人事上の不利益を課すなどの嫌がらせ行為を行ったことにより、原告は甚大な精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償金200万円を請求した
主文
1 被告は、原告に対し、金50万円を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
判決要旨
 原告の主張する3回に及ぶ被告の卑猥な行為、性的要求のうち、酒に酔って性器を露出させた行為については信用できるものの、モーテルに誘う、首筋に息を吹き掛ける行為については周囲の者の供述や前後の状況に照らして不自然であり、採用できない。

 被告の卑猥な行為がなされて以降、長期に休んでいた児童に対し原告が訪問指導をしたり、水泳指導をしたりしたことについて被告が特にコメントをしなかったこと、登校拒否児童の親との会見を原告が再三要請したにもかかわらず被告がこれに応じなかったことを原告は嫌がらせと主張するが、教頭がそれらについて配慮していることが認められるから、被告の行為は不相当とは言い難く、卑猥な行為に対する原告の対応に関連する嫌がらせ行為とも解しがたい。

 原告は、平成4年度に4年生の学級担任になり、平成5年度は学級担任にはならず、初任者指導教員に指名されたが、4年生の担任は原告の希望であり、初任者指導教員についても人事の必要性が認められ、降格人事ということはできない以上、被告の卑猥な行為に対する原告の対応に関連した嫌がらせ行為とは解し難い。

 原告は、他にも、被告が原告に対し種々の嫌がらせ行為を行った旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。
 被告が原告に対して行った卑猥な行為の態様、原告と被告の社会的地位、年齢、職場における関係その他一切の事情を考慮すれば、被告の不法行為によって原告の被った精神的苦痛を慰謝するには50万円をもって相当とする。
適用法規・条文
02:民法709条
収録文献(出典)
判例時報1577号100頁、労働判例707号95頁
その他特記事項