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(財)U病院事件

事件の分類
雇止め
事件名
(財)U病院事件
事件番号
松山地裁 − 平成9年(ワ)第59号、松山地裁 − 平成10年(ワ)第90号
当事者
原告 個人2名(A、B)
原告 個人1名(C)
被告 財団法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年12月28日
判決決定区分
一部却下、一部認容、一部棄却(確定)
事件の概要
 被告が経営する病院に、原告Aは平成6年に介護者として、原告B,Cは准看護婦としてそれぞれ平成6年と5年に採用された。採用以来、AとBはそれぞれ1年の雇用契約を2回更新されたが、平成9年2月14日、3回目の更新に際し妊娠を理由に更新を拒絶され、Cは1年の雇用契約を4回更新されたが、平成10年2月23日、5回目の更新に際し正規職員への採用試験の不合格を理由に更新を拒絶された。

 被告の事務長はA、Bに対して、準職員は正規職員の妊娠・病気の際の代わりであって、準職員が妊娠したらいらないとの発言をし、A、Bともその場では異議を唱えずに退出し、送別会にも出席したが、その後被告に対し退職しない意思を伝え、雇止めを拒絶する意思を記した内容証明郵便を出した。
 原告らは、契約更新手続きは形式的なもので、準職員は職務において正規職員と差がなく恒常的な存在であること等から、雇用継続に合理的な期待を有しており、契約更新拒絶には解雇法理が類推適用されるとして雇止めの無効を主張し、雇用契約上の地位の確認及び賃金の支払いを求めた。
主文
1 原告A,B,Cが、被告に対し、それぞれ雇用契約に基づく権利を有することを確認する。
2 被告は、原告Aに対し、金869万6340円を支払え。
3 原告Aの訴えのうち、口頭弁論終結後の給付を求める部分を却下する。
4 原告Aのその余の請求を棄却する。
5 被告は、原告Bに対し、金883万0800円を支払え。
6 原告Bの訴えのうち、その余の部分を却下する。
7 被告は、原告Cに対し、金752万8040円を支払え。
8 原告Cの訴えのうち、その余の部分を却下する。
9 訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
 雇止めについて解雇に関する法理が類推適用されるのは、原告が契約更新に対して期待を寄せることが合理的であって、それが法的保護に値するからであるから、その効果を障害するための雇止め承諾の意思表示は、消極的・受動的なものでは足りず、被告に対し、積極的・能動的になされたものである必要がある。

 本件において、原告Aは、雇止めが通告された際に「わかりました」と述べたのみで、被告に対し、それ以上に積極的・能動的に承諾の意思表示をした事実は認められない。また、原告Aが、同僚に対し、退職を前提とした態度を示したとしても、その一方で労働組合に今後の対応を相談し、被告に対して雇止めを拒絶する内容証明郵便を送付し、承諾とは相反する態度をとっていることに照らせば、雇止めの承諾の意思表示をした事実は認められない。

 原告Bは、被告の雇止め通告に対し、何らの意思表示もせず、送別会に参加し挨拶をしているが、その一方で労働組合に相談し、婦人少年室に事情を訴えるなどしていることに照らせば、被告に対し雇止めを承諾したと評価することはできず、積極的、能動的に承諾の意思表示をしたものとは認められない。

 被告病院においては、夜勤体制を強化することとしており、看護職員であれば正規職員であると準職員であるとを問わず、夜勤を含む通常勤務に就くことが求められていたことからすれば、通常勤務に就くことができるということは、準職員にとっても本質的な条件であったと考えられる。したがって、契約更新時において、被用者が通常勤務に就けないことは、一般に、期間満了を理由として準職員を雇止めすることを相当とする特段の事由に当たるということができる。

 しかしながら、原告Aは平成8年10、11月に切迫流産のため欠勤し、その後雇止めの通告の際、原告Aが妊娠したから首になるのか、と尋ねたところ、事務長がこれを一応否定しつつも、準職員は正規職員が妊娠・病気の時の代わりであり、そのための準職員が妊娠したら何のための1年契約かわからない、と述べたこと、原告Bは、平成9年1、2月に切迫流産のため欠勤したが、事務長は雇止め通告前にこのことを認識していたことが認められる。

 これらの事実によれば、被告は、原告A,Bが雇止め通告の時点で妊娠しており、やがて勤務できなくなることを認識した上で雇止めしたことが認められるから、雇止めの理由は、原告らが妊娠したためであったと認めざるを得ない。

 ところで、事業主が、妊娠や出産を退職の理由として予定したり、解雇の理由としたりすることは、男女雇用機会均等法第8条2項及び3項で禁じられており、その趣旨は、期間を定めた雇用契約について解雇の法理が類推適用される本件においても、当然に妥当するというべきである。

 以上から、被告において準職員が通常勤務できない場合であっても、それが妊娠したことによる場合には、期間満了による雇止めは更新拒絶権を乱用したものとして、無効とするのが相当であるところ、被告が、原告A,Bを雇止めとしたことは、両名の妊娠を理由とするものであるから、この雇止めは無効である。
 (原告Cに関する記述 略)
適用法規・条文
08:男女雇用機会均等法8条
収録文献(出典)
労働判例839号68頁
その他特記事項