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大阪市立中学校事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
大阪市立中学校事件
事件番号
大阪地裁 − 平成6年(ワ)第8459号
当事者
原告個人1名

被告個人1名
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年09月25日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 原告は、平成3年4月から大阪市立中学の英語指導を担当している女性教諭であり、被告は平成2年4月から同校で英語を担当している男性教諭である。

 同中学校では、原告が赴任する前は、国際理解教育は被告が中心になって行われていたが、原告が同校に赴任してからは、原告が国際交流委員会の主任担当者に指名され、同校の国際理解教育は原告が中心になって行われるようになった。また、平成5,6年には同校の国際教育推進委員長として原告が選任された。このような状況の下、被告は原告・被告共通の知人であるAに対して、「原告は気が強く、強情かつ我儘であり、目上の男性に対しては、自分の思い通りにならないと涙を流してみせる。」「しんどい仕事は他人に押し付ける。」「平気で嘘をつく。自分の望みを達成するためには女の武器を使う。」「他の教師が生徒指導でしんどい目をしているのに平気で休む。」「セクハラをされたと言って勝手に騒いでいる。」「英語は確かに上手にしゃべるけど、英語教育のことは何も知らない。」などと繰り返し話した。また、平成5年6月には、被告は職員室内で同僚らに対して、原告は他人にどんどん仕事を振ってくる、信用できない旨の発言もした。これについては原告の要請によりAが仲裁し、被告は原告に対し、この発言について謝罪した。

 しかし、同年8月、同校に英語指導助手として赴任した外国人Bに対して、被告は「原告は一緒に仕事をしていくのがなかなか難しい人で、助手には好かれていない。」「原告は生徒に好かれていないので、授業を楽しむことはできないだろう。」「原告はデートができるように、男性の助手を好んでいる。」などと繰り返して話した。また、被告は、同年10月頃、Bに対して、誰にでもわかる簡単な英語で、「原告が生徒に厳しく当たっているのは、性的に不満があるからだ。」と話し、平成6年1月の新年会の二次会で、同僚教師が集まっている中で、売春や白人女性、黒人女性及び日本女性のセックスが話題になった際、被告はBに対して、簡単な英語で、原告について、「彼女に男さえいれば、性的に満たされるのに。」などと話した。このような中で、原告は校長から大学院受験の推薦の打診を受けた際に、被告とのトラブル解決のために取引をしたと噂されることを恐れて、これを辞退した。

 原告は、被告の各行為は、原告の就労環境・条件を悪化させ、原告を精神的に追い詰め、原告の就労活動意欲を萎縮させ、原告を迫害する目的で繰り返された嫌がらせ、苛めで、人格権を侵害するものであり、そうでないとしても、原告の名誉及び信用を毀損するものであるとして、民法709条に基づき、100万円の慰謝料を請求した。これに対し被告は、原告の主張する事実を否定するとともに、中学校内で既に定着していた原告の評価を述べたに過ぎないとして争った。
主文
1 被告は、原告に対し、金50万円及びこれに対する平成6年8月31日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、これを2分し、それぞれを各自の負担とする。

4 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
判決要旨
 認定の事実によれば、被告は原告を嫉み、平成5年6月から平成6年にかけて、誹謗中傷する発言を繰り返していたものと認められ、右被告の行為は、原告に対する嫌がらせ、苛めと評価することができ、原告の人格権を侵害するものというべきであるから、不法行為に該当する。

 本件不法行為の内容、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、慰謝料額は50万円が相当であると認められる。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
判例タイムズ995号203頁、労働判例735号87頁
その他特記事項