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横浜セクハラ短期大学事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
横浜セクハラ短期大学事件
事件番号
横浜地裁川崎支部 − 平成6年(ワ)第707号
当事者
原告個人3名A、B、C(うち女性1名C)

被告個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年03月20日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 原告Aは、短期大学(大学)の男性教授、原告Bは大学の男性名誉教授、原告Cは大学の女性助教授であり、被告は大学の女性専任講師である。

 被告は、平成5年4月9日付けで神奈川県教育長宛に、原告Aのセクシャルハラスメントについて記載された書簡を提出した。これによると、「原告Aが女性蔑視の考えの持ち主であることは、繰返されるセクハラによって明らかだ。一例を挙げると、平成3年4月の職員歓送迎会の場で、被告Aは女子職員2名の乳房をむんずと掴み、被告が注意すると、「こうすると女は喜ぶんだ。時々こうしないと女を忘れる。」と暴言を吐き、被告が「告訴されますよ。」と注意すると、「こちらからしてやる」と意味不明の暴言を続け、被告に対してもキスを強要し、他の女子教員が「研究室で女子学生の太ももを撫でているのを見ましたよ。」と言ったのに対しても、ただ苦笑しただけだった。原告Aにとってセクハラが常態になっていたことの例であろう。」と記されていた。

 同書簡では、被告Bについて、公用タクシー券を濫用し、同僚教員の無届台湾旅行に同行し、あたかも自分1人で出かけたかのように大学の図書館報に書いており、被告の在外研究を妨害したこと、原告Cについては、原告Cが文部省在外研究員としてハワイ大学に派遣されることになったことに関連して、以前原告Cが脱税幇助をした旨の匿名の投書をされたことを捉え、「公務員法違反を犯した人間を派遣するのは800万県民の血税を浪費するものだ。」という記載がなされていた。

 原告A及びBは、被告がこのような内容の書簡を教育長宛に送付したことにより、原告A及びCは教授会の場でその内容の発言をしたことにより名誉を毀損されたとして、民法709条及び710条に基づき、被告に対し、原告各自に対し100万円を支払うよう請求した。これに対し、被告は、被告が受けたセクハラは事実であり、本件書簡は教育長に宛てた私信であり、原告Aの名誉を毀損する意思はないこと、タクシー券不正に関して記載したことは事実だが、書簡は教育長宛の私信であり、原告Bの名誉を毀損する意思はないこと、原告A及び原告Cについて、教授会で発言したことはないことを主張して争った。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
判決要旨
 本件書簡において、被告はセクハラについて調査や処分を求めていないが、記載内容からすれば、個人的書簡であろうと、原告Aの行動をセクハラとして記載したものであり、これが事実でないとすれば、被告の意図はともかく名誉毀損と言われてもやむを得ないものである。原告Aはセクハラの事実を真っ向から否定し、大学の元及び現女性職員宛にアンケートを送付し、その事実がなかったことを書証として提出している。しかしながら、男性が職場内の懇親会等飲酒の場で、女性に対し性的な言葉をかけたり、身体に触ろうとする等のいわゆるセクハラ行為はまま見られるところであり、女性において職場内のセクハラ行為の場合、特に相手が上司である場合は、被害者であっても泣き寝入りすることも珍しくなく、単に目撃しただけであれば関わり合いになるのを避けようとする思いは当然であって、原告Aにセクハラがあったかはともかく、そのように疑わせる行為はあったと推認できる。そうだとすると、本件書簡の性質に鑑み、教育長において、ある程度の疑いを持ち、その事実を確認するため、原告Aから事情聴取したとしても、原告Aの名誉を毀損するものとはいえないのであり、結局、本件書簡が被告Aの名誉を毀損すると認めるには足りないというほかない。

 

被告の在外研究妨害の記載については、被告の主観的意見に過ぎないと思われるから、原告Bは教育庁から事情聴取を受けたとしても、自分の意見を開陳すれば足りるものであり、この記載を持って原告Bの名誉が毀損されたものとまでは認め難い。タクシー券不正使用の記載については、そのような噂があったと摘示するに止まるものであり、確かに「黒いうわさ」との表現は些か妥当を欠くものの、この記載だけでは原告Bの名誉を毀損するものとは未だ認め難い。台湾の無断旅行の記載については、教育庁もさほど関心を持たぬものと推認され、これをもって直ちに名誉毀損とは認め難い。

 教授会で、被告が原告Cを指して、「公務員法違反を犯した人間を派遣するのは800万県民の血税を浪費するものだ。」と発言をしたことについて、「800万県民の血税云々」まではほぼ一致するものの、それ以外は食い違いがあり、更に教授会の議事自体にかなり混乱状態が窺えるから、原告C主張の被告の発言が教授会においてなされたと認めるに足りないといわざるを得ない。
適用法規・条文
民法709条,710条
収録文献(出典)
労働判例770号135頁
その他特記事項
本件は控訴された。