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東京協同組合事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
東京協同組合事件
事件番号
東京地裁 − 平成8年(ワ)第21990号
当事者
原告個人1名

被告個人2名,B、C

被告A共同組合
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年10月26日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
被告Bは、被告組合の専務理事、被告Cは同総務部長の地位にある男性であり、原告は平成5年3月に短大を卒業後、他社勤務を経て平成7年2月25日、被告組合と雇用契約を締結した女性従業員である。

 平成8年4月1日、被告組合の従業員全員が出席して懇親会が開催され。一部の従業員は二次会に参加した。原告は飲酒が苦手であることから、二次会に参加する意思はなかったが、被告Cは原告の参加を強く勧め、腕を取ってタクシーに乗車させた。被告Cと原告は六本木でタクシーを降りて二次会会場に向かおうとしたが、被告Cは原告の気分の悪そうな様子を見て、原告を自宅まで送り届けることとし、原告とタクシーに乗車した。車内で原告が吐き気を訴えたため、被告Cと原告は下車し、原告は嘔吐を続けた。被告Cは、通りがかりの通行人に救急車を依頼し、救急車で原告に付き添って病院に行き、医師に事情を説明し、原告の家族に連絡して帰宅した。原告は急性アルコール中毒と診断され、点滴を受けた後、家族とともに帰宅した。

 原告は、本宴会の翌日、翌々日と欠勤し、平成8年4月30日付けで被告組合を退職した。その後、原告は、上司であった被告らに宴会の席で飲酒を強要された上、二次会への出席を強要されるなどの行為(セクシャルハラスメント)によって多大な精神的苦痛を被ったとして、被告らに対し不法行為に基づき300万円の損害賠償を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告は、本件宴会終了後、タクシーに乗車するまでの状況について、被告Cに対し大声で抗議したこと、被告Cが原告をタクシーに乗車させた行為は、被告Cを殴るでもしない限り逃れることができないほど暴力的であったこと、また、車内では泣き叫んで抗議し、余りの恐怖感で失神した旨供述する。確かに原告は二次会への参加を拒否していたことが認められるが、一方においては原告の供述を裏付ける証拠もなく、原告が実際に大声で抗議するなどしていれば、周りの同僚も気づくはずであり、被告Cは六本木まで行ったものの結局は原告を自宅まで送り届けようとしたことなどからすれば、強引であったとしても暴力的というのは誇張に過ぎるというべきである。

 認定によれば、被告B及び被告Cが、嫌がる原告に無理矢理飲酒させた上、身体の自由を奪って二次会へ参加させるべくタクシーに乗車させたとまでは言うことが出来ない。被告らの、本件宴会において原告に対して飲酒を勧めた行為や二次会に参加させようとした行為には、強引で不適切な面があったことは否定できないとしても、飲酒した宴会の席では行われがちであるという程度を超えて不法行為を構成するまでの違法性があったとはいえず、被告B及び被告Cに不法行為は成立しない。

 六本木で原告がタクシーを下車した当時、被告Bは原告に付き添わず二次会へ向かったが、当時原告は自分で歩行できた上、被告Cが付き添っていたことからすれば、被告Bとしては、自分が直ちに原告の家族に連絡するなどの措置をとる必要があると考えなかったとしても、やむを得なかったというべきであり、被告Bに不法行為の成立する余地はないといわざるを得ない。

 原告は、被告Cが原告を長時間路上に放置したというが、当日は雨のためタクシーがすぐに拾えず、乗車時間が日中と変動することは珍しくなく、タクシー下車後救急車が到着するまで約1時間が経過しているが、被告Cが連絡する術もなく途方にくれていた状況からすれば、その程度の時間がかかってもやむを得ないというべきであり、被告Cが原告を理由もなく長時間放置していたということはできないから、被告Cにも不法行為は成立しないというべきである。

 更に原告は、被告Cや同Bが原告の家族や被告組合の従業員に対し、「原告が宴会で飲みすぎて、救急車で運ばれた。」と虚偽の事実を述べた旨主張するが、原告の家族に対し、原告の症状を告げるのはむしろ当然のことであり、病院で急性アルコール中毒と診断されているのであるから、虚偽の事実を述べたということはできない。また、被告Cは、翌日被告Bに対し前夜の報告をしているが、それも当然の義務というべきであり、他の従業員に対し、虚偽の事実を流布したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、この点に関しても被告らの不法行為は成立しない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例756号82頁
その他特記事項
本件は控訴された。