判例データベース
千葉設計会社事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 千葉設計会社事件
- 事件番号
- 千葉地裁 − 平成9年(ワ)第1052号
- 当事者
- 原告個人1名
被告個人1名 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年01月18日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 原告は、平成8年6月に、建築設計などを業とするA社に採用され、CADオペレーターとして図面作成業務に従事していた女性である。
被告はA社の男性従業員で、原告と2人きりで作業を行うことが多かったが、原告の入社直後から、原告に対し、自らの性体験を語る、夫婦間の性的関係の有無を問いただす、「おばさん」「子持ちのババア」といった言辞を行う、キーボード操作を教える際に必要以上に身体を密着させる、抱きつく、髪をなでるという行為や、卑猥な写真を原告のコンピューターの前に置くといった行為を行った。原告はその都度不快感を示したり、抗議したりしたが改められないため、平成9年2月にA社の社長に苦情を訴え、社長立会いの下で、被告に今後セクハラ行為を行わない旨の誓約書を求め、被告も一旦は事実関係を認めた。その後原告は他の階で作業を行うようになったが、同月末に退職した。
被告は、これらの行為に加え、原告宅に20数回電話をかけて愚痴を聞かせ、更に女性を紹介するように迫って、原告が1回だけ紹介したところ、その女性との関係が実らなかった経緯を書いた手紙を送ってきて執拗に意見を求めた。原告は、これらのセクハラ行為及び嫌がらせ行為によって精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づく200万円の損害賠償を請求した。 - 主文
- 判決要旨
- 職場において、男性の上司が部下の女性に対し、その地位等を利用して女性の意に反する性的言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく、その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、女性の対応等を総合的に見て、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となるというべきである。
これを本件についてみると、原告と被告はほぼ同年齢で、入社当事原告は31歳であり、原告が既婚であるのに対し被告は独身であることに鑑みれば、被告が原告に対して性的な話題を持ち出すことはそれ程不自然とはいえないものの、被告は原告の上司として仕事を教える立場にあった上、もっぱら勤務時間中に、原告が他の従業員に助けを求めることができない2人きりの部屋で性的言動による嫌がらせをしていたこと、原告が被告の性的嫌がらせに対し明確な拒否反応を示していたにもかかわらず、被告は原告の意思を無視してこれを繰り返していたことが認められ、嫌がらせの内容、期間等を考慮すると、原告に対する被告の一連の行為は、社会的相当性の程度を超えたものというべきであって、原告に対する人格権の侵害として違法の評価を免れない。
被告は、原告に対して電話で愚痴をこぼしたり、女性の紹介を頼んだり、手紙を渡して意見を求めたりしているが、その電話や手紙の内容は原告に向けられた嫌がらせ的な内容とは認められず、また原告の意思に反して無理矢理行われたものであったという事情も認められない。確かに、手紙の内容からは、被告が多少粘着質である印象を与え、人によっては不快感を覚えるであろうことは否めないものの、社会的相当性の見地から、職場の仲間とのプライベートな関係としての許容範囲を逸脱しているとまでは認められない。
原告は、被告が行ったセクハラ的言動により精神的苦痛を受けたことが認められ、その内容、被告と原告の会社における地位、年齢、その後原告及び被告双方が会社を退社していること等本件に現れた一切の事情を考慮して、原告の精神的苦痛に対する慰謝料を80万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、710条
- 収録文献(出典)
- 労働判例768号87頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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