判例データベース
沼津F鉄道工業事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 沼津F鉄道工業事件
- 事件番号
- 静岡地裁沼津支部 − 平成9年(ワ)第568号
- 当事者
- 原告個人1名
被告個人2名A,B
被告F鉄道工業株式会社 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年02月26日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、平成7年11月17日に被告会社に、期間の定めのないパートタイマーとして雇用され、熱海支店に配属された女性であり、被告Aは同支店の副支店長、被告Bは同支店の事務次長の地位にある男性である。
原告の入社当初から、被告Bは原告に対し、「大人の付き合いをしよう。」などと交際を申し込み、平成7年12月5日、宅建主任者試験合格祝いとして、原告を食事を誘った。原告は、被告Bが上司であることから断れないと考えて共に飲食をし、被告Bを自車に乗せたところ、被告Bは原告に寄りかかり、危険を感じた原告が停車させると、座席シートを倒して原告に伸し掛かり、下着に手を入れた。その後も原告はたびたび被告Bに誘われ、週1度くらいの割合で一緒に昼食に行っていたが、夜にも付き合うように再三言われ、平成8年2月頃被告Bに退職を申し出たところ、被告Bは自分の異動を告げて、原告を引き止めた。
原告は、被告Bから暴行を受けたり、交際を迫られたりしていたので、原告及び被告Bの上司である被告Aに相談をした。被告Aは原告から相談を受けた後の平成7年12月頃から、原告を誘って夜に食事に行くようになり、この状態は平成8年3月頃まで続いた。その間、被告Aは熱海支店の廊下や階段で原告に抱きついたり、手を握ったり、太股を5,6回触ったりした。また原告の歓心を買うため、新品のワープロ、ネックレス、靴、手袋、果物等を原告にプレゼントした。
原告は、平成8年6月頃、C支店長と一緒に下請け回りをしたり、昼食をとったりし、偶然同じ日に休暇を取ったりしたことから、被告Aと被告Bは、原告とC支店長とが特別な関係にあるかのような噂を流し、両者が示し合わせて休暇を取ってドライブをしていたと被告会社の常務に報告をした。
被告Aは、平成9年3月、熱海支店で協力会社の女性従業員3人をもてなすため、希望するジュース聞き、原告がこれを断ったところ、被告Bは、「この人は、ジュースやお酒ではなく、男が欲しいんだ。」などと侮辱的な発言をした。
同年4月14日、原告はC支店長同席の上、被告Aと話合いをし、Cとの噂を流したこと、原告の身体を触ったことを抗議したが、被告Aはこれらを否定した。
C支店長は、同月18日、被告会社本社の指示を受けて、原告に対し、経費節減を理由に退職勧告をしたが、原告はこれに応じなった上、解雇予告の撤回とセクハラ防止の対策を講じることを求めた。これに対しC支店長は、同月26日、原告に対し、「6月から来なくても良い。」と言い、原告の代理人に対し、解雇は人員整理上やむを得ないものであり、本書面をもって6月末日限り解雇すること、被告A及び被告Bは原告に対し執拗に交際を迫ったことはないことを内容証明郵便で通知した。
原告は、被告会社を相手に、地位保全の仮処分命令を申し立て、その決定がなされたところ、被告会社は解雇を撤回し、原告に対し、平成9年10月20日から職場に復帰するよう命じた。原告は、熱海支店に復帰したが、従前の仕事と異なり、掃除等雑用仕事をしており、これ以外にはほとんど仕事がない状態にあり、平成9年以降、昇給あるいは賞与の支給はなかった。
原告は、被告A及び被告Bのセクハラ行為によって精神的苦痛を受け、また被告会社はセクハラ行為を防止すべき義務を怠り、これに抗議した原告を制裁するために違法な解雇をしたとして、被告会社に対し、慰謝料700万円と賞与133万7600円を、被告A及び被告Bに対し、それぞれ慰謝料300万円を請求した。 - 主文
- 1 被告会社は、原告に対し、金200万円及びこれに対する平成9年11月29日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告会社は、原告に対し、金57万1896円及び内金14万2974円に対する平成9年7月2日から、内金14万2974円に対する同年12月21日から、内金14万2974円に対する平成10年7月6日から、内金14万2974円に対する同年12月11日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告Aは、原告に対し、金80万円及びこれに対する平成9年11月29日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Bは、原告に対し、金80万円及びこれに対する平成9年12月2日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
7 この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告会社は、経費節減のために人員整理をしなければならない状態にあったので本件解雇をしたと主張するが、原告は、本件解雇に至るまでの間、性的嫌がらせがあったことを訴えており、特に、C支店長が常務から注意を受け、原告が常務に電話をかけた直後に解雇の噂が出るようになり、間もなくしてC支店長から退職の勧告がなされたこと、本件解雇についての仮処分決定後とはいえ、被告会社は本件解雇を撤回していることに照らすと、本件解雇は、解雇権の濫用であるというべきである。
被告Bの行為は、職場での上下関係を利用して、異性の部下である原告の意思を無視して性的嫌がらせ行為を繰り返し、付き合いに応じない原告の職場環境を悪化させたものであり、原告の人格権を侵害するものであるから、原告の被った損害を賠償する責任があるというべきである。
被告Aの行為は、被告Bの場合と同様に、職場での上下関係を利用して性的嫌がらせ行為等を行ったものであり、原告の人格権を侵害するものであるから、原告の被った損害を賠償する責任があるというべきである。
被告会社は、被告B及び同Aの使用者であり、同被告らの不法行為は同被告らの職務と密接な関連性があり、被告会社の事業の執行につき行われたものと認めるのが相当であるから、使用者として不法行為責任を負う。また、被告会社は、原告やC支店長に機会を与えてその言い分を聴取するなどして原告とC支店長とが特別な関係にあるかどうかを慎重に調査し、人間関係がぎくしゃくすることを防止するなどの職場環境を調整すべき義務があったのに、十分な調査を怠り、被告Bらの報告のみで判断して適切な措置を執らず、しかも、本件解雇撤回後も、被告Aの下で勤務させ、仕事の内容を制限するなどしたものであり、職場環境を調整する配慮を怠ったものであり、この点に不法行為があるというべきである。更に、被告会社は、解雇権を濫用して原告を解雇したもので、この点についても、不法行為責任を負う。
本件不法行為の態様その他本件記録上現れた諸事情を考慮すると、原告の精神的苦痛は相当なものであるから、これに対する慰謝料は、200万円(被告B及び同Aに対する関係では各80万円)が相当である。
賞与は、労働協約、就業規則、労働契約などに支給時期、額及び計算方法が定められ、これによって支払いがなされるところ、原告については、被告会社は勤務の形態を考慮して、賞与として1ヶ月分を支給する旨の意思表示をしたものと認められる。そうすると、原告は、被告会社に対し、賞与として、平成9年7月1日、同年12月20日、平成10年7月5日、同年12月10日に、それぞれ1ヶ月分の給与額に相当する14万2974円を請求できるものというべきである。 - 適用法規・条文
- 民法709条、710条、715条
- 収録文献(出典)
- 労働判例760号38頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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