判例データベース
大学女子職員セクハラ控訴事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 大学女子職員セクハラ控訴事件
- 事件番号
- 仙台高裁 − 平成11年(ネ)第282号、仙台高裁 − 平成12年(ネ)第52号
- 当事者
- 控訴人(附帯被控訴人) 個人1名
被控訴人(附帯控訴人) 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年03月29日
- 判決決定区分
- 一部変更・附帯控訴棄却(上告)
- 事件の概要
- 被控訴人(原告)は、大学の指導教授である控訴人(被告)に、夜自動車で迎えに来るよう依頼され、交際相手のことで詰問された挙句、車内で強姦された。その後、被告は原告の交際相手に対して、原告との性的関係は合意によるものであること等虚偽の事実を告げて、原告に対し多大な精神的苦痛を与えたとして、原告は被告に対し、1000万円の慰謝料及び177万円の弁護士費用を請求した。
第1審では、原告の主張する事実関係を認め、被告の行為は原告の信頼を裏切り、大学での立場を利用したもので、極めて悪質であるとして、被告に600万円の慰謝料と100万円の弁護士費用の支払いを命じた。これに対し被告はこれを不服として控訴するとともに、原告も附帯控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
一 控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、金230万円及び内金200万円に対する平成8年8月16日から、内金30万円に対する平成10年2月14日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
2 被控訴人(附帯控訴人)の本件附帯控訴を棄却する。
3 控訴につき訴訟費用は第1,2審を通じてこれを5分し、その1を控訴人(附帯被控訴人)、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、附帯控訴につき控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
4 この判決の主文第1項は、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 控訴人(附帯被控訴人)が当夜被控訴人(附帯控訴人)を呼び出したのは、被控訴人にAとの交際を注意しようと考えたことによるものであって、当初から本件行為に及ぶことを意図していたものということはできず、そのことは、控訴人が乗車後、話し合う場所として喫茶店を提案していることからも明らかである。もっとも、被控訴人が控訴人の教え子であり、教授と副手の関係にあるとはいえ、若い女性に対し、夜遅く車での出迎えを依頼するのは、いささか非常識のそしりを免れない。他方、被控訴人はそれまで控訴人から車での出迎えを依頼されたことがなかったにもかかわらず、呼び出されるままに控訴人を出迎えに行き、控訴人に指示されるまま本件現場に車を乗り入れ、停車させたのであって、いかに控訴人を信頼していたにせよ、無警戒に過ぎる行為であったというべきである。
被控訴人の体に外部から見て暴行を受けた痕跡はなく、着用していたブラウスのボタンはちぎれておらず、下着のレースの一部に破損が認められるが、被控訴人が主張・供述するような必死の抵抗があったとすれば、破損状態はこの程度には留まらないとも考えられる。結局のところ、控訴人の本件行為は、全体として控訴人の一方的な要求に基づくものというべきであって、被控訴人の同意があったものとは認められないが、車内は相当に狭かったから、被控訴人のある程度協力的な行為がなければ車内において性的関係まで結ぶことは困難であったと認められる。したがって、被控訴人には控訴人の行為を断固として拒否する態度に欠けていたものといわざるを得ない。
控訴人は、被控訴人が作成した控訴人に対する謝罪メモの存在によっても本件行為が強姦でないことは明らかである旨主張するが、被控訴人は、控訴人の説明により強姦に当たらないと信じたAから強く非難されていたのであって、そのような状況の下において、被控訴人が自らを責め、自己が謝りさえすればすべてが終わると考えて本件メモを作成した同人の供述も理解できないものではない。したがって、本件メモが存在することから、直ちに本件行為が合意に基づくものであると認めることはできない。
以上によれば、控訴人は被控訴人の意に反する性的行為ないし性的関係を強要したものというべきであり、右行為は被控訴人の性的自由を侵害するものとして不法行為に当たる。
本件行為は計画的なものではなく、控訴人が夜遅く被控訴人と狭い社内で話すうち衝動的に行われた多分に偶発的なものということができるが、控訴人は、被控訴人が控訴人を信頼し、またその指示・要求に従わざるを得ない立場にあるのを不当に利用して本件行為に及んだものというべきであって、その行為は非難されなければならない。しかし、被控訴人の行動も無警戒に過ぎ、本件現場においても、被控訴人が控訴人の要求を断固として拒否する態度に出たならば本件行為にまで至らなかったものということができる。以上のような本件行為に至る経緯、本件行為の経過と態様及びその他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、被控訴人に対する慰謝料は200万円をもって相当とする。また、本件事案の内容、訴訟の経緯等にかんがみれば、弁護士費用は30万円をもって相当とする。 - 適用法規・条文
- 民法709条、710条
- 収録文献(出典)
- 判例時報1800号47頁
- その他特記事項
- 本件附帯控訴は上告された(上告棄却)
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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