判例データベース
外国法人銀行支店長事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 外国法人銀行支店長事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成8年(ワ)第24351号
- 当事者
- 原告個人2名A、B
被告個人3名C、外国法人銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年10月27日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 原告Aは昭和42年、原告Bは昭和61年にそれぞれ被告銀行に採用された女性従業員であり、被告Cは平成7年12月に来日し、平成8年1月29日から東京支店長となった男性である。
平成8年2月21日、原告Aは被告Cから支店長室に呼ばれ、家族構成等を尋ねられた後、被告Cの自宅で日本語を教えて欲しいとの依頼を受けた。原告Aは英語ができないことを理由に断ったが、被告Cが在日代表であったことからやむなく承諾した。原告Aは日本語学習用テキストを購入したものの、訪問予定の同月28日に訪問を断り、行くときには友達を連れて行くと言ったが、被告Cは絶対に一人で来るように指示した。同日夜原告Aは被告Cのマンションを訪問し、テキストを渡して帰ろうとしたが、被告Cに部屋に引き入れられた。部屋に入って10分程雑談した後、被告Cは突然原告Aの手を掴み、股間に入れ、陰茎を触らせた。原告Aは手を振り払ったが、被告Cは原告Aの襟元からブラジャーの間に手を入れ、乳房をもみ始めた。原告Aは逃げようとしたが、被告Cは原告Aを両手で抱き上げ、「大声を出すな」と繰り返し恫喝しながら、原告Aをベッドに投げ落とし、身体ごとのしかかり抵抗を抑圧した上で、原告Aの下着をストッキングごと剥ぎ取り、陰茎を原告Aの陰部に強引に挿入して射精した。被告Cは射精後、コンドームの始末をし、原告Aは被告Cが出した飲み物を飲んだ後、子供が待っているので食事を作らなければならないと言って帰宅した。
同月26日、被告Cは原告Bを支店長室に呼び出し、自宅に来るよう告げ、原告Bが行く気はないと答えると、他の女性を紹介するように言った。また被告Cは他の従業員の妊娠の状況について原告Bに尋ね、原告Bの妊娠の予定を尋ねた後、突然原告Bの右手を引っ張り、身体を引き寄せて頬にキスをし、さらにTシャツの上から胸を触り、スカートをめくり上げ、腹部を撫で回し、Tシャツの襟からブラジャーの中に手を入れ、乳房を掴み、もみ上げた。被告Cは同日再び原告Bを呼び出し、後日自宅に来るように指示し、原告Bがこれを拒むと、他の女性を紹介するよう要求し、「このことは誰にも言ってはいけない」と脅した。
原告らは、本件わいせつ行為等以降、被告銀行において、元支店長の送別会の出席を拒絶され、忘年会、新年会その他のパーティーにも声をかけられなかった。また原告Aは、アシスタントマネージャー(AM)に、他の従業員の前で些細な間違いを一大事のように責め立てられ、別のAMには「許可なく書類を机の上に置くな」「のさばってんじゃない。人間性を疑うよ」「コンピューターに触るな」などと言われた。原告Bは、何日も前に有給休暇願いを出していたにもかかわらず、当日になって上司から許可しないと言われた。
原告らは、被告Cの強姦等のわいせつ行為によって、著しい精神的苦痛を受けたこと、本件わいせつ行為以降、上司らから嫌がらせを受け、事実上の村八分の扱いを受けて更に精神的苦痛を受けたことを主張した。その上で、原告らは、被告Cは不法行為に基づく損害賠償責任を有すること、被告銀行は、使用者として従業員が職場でセクシャルハラスメントを受けないような環境を整備する義務があるにもかかわらず、この義務を履行しなかったこと、本件わいせつ行為等は被告Cが職務上の地位を利用した悪質なセクシャルハラスメントであり、原告らに対する不法行為であって、被告銀行は民法715条により本件わいせつ行為等について使用者責任を負うことを主張して、原告Aについては600万円、原告Bについては248万円の慰謝料を被告らが連帯して支払うよう請求した。
これに対し、被告らは、被告Cが原告A及び原告Bを支店長室に呼び出したこともなければ、原告Aを自宅に呼んだこともないと、原告らの主張する事実は捏造であると主張して全面的に争った。 - 主文
- 1 被告らは、原告Aに対し、連帯して金330万円及びこれに対する平成8年12月31日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告Bに対し、連帯して金77万円及びこれに対する平成8年12月31日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告Aと被告らとの間においては、原告Aに生じた2分の1を被告らの連帯負担とし、その余は各自の負担とし、原告Bと被告らとの間においては、原告Bに生じた10分の3を被告らの連帯負担とし、その余は各自の負担とする。
5 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 被告Cの責任の有無
被告Cは、原告Aに対してその意に反してわいせつな行為をした上、暴行を持って原告Aを姦淫したものであるから、民法709条に基づき、右行為によって原告Aに生じた損害を賠償する責任がある。また被告Cは、原告Bに対してわいせつな行為をしたものであるから、民法709条に基づき、右行為によって原告Bに生じた損害を賠償する責任がある。
2 被告銀行の責任の有無
原告Aに対する強姦行為自体は勤務時間外に被告Cの自宅において行われたものであるが、被告Cは、被告銀行の日本における代表者であり、従業員である原告Aに対し、業務時間中に内線電話を用いて支店長室に呼び出して日本語を教わりたいことを口実に自宅への来訪を要請したものであって、被告Cの地位に照らせば、従業員に日本語を教えるよう求める行為は被告銀行の事業の執行行為と密接な関連を有する行為と認められる。また、原告Bに対する強制わいせつ行為については、被告Cが内線電話を用いて呼び出した上、勤務時間中に支店長室において強制わいせつ行為に及んでおり、被告銀行の業務の執行行為と密接な関連がある行為というべきである。したがって、被告Cの使用者である被告銀行は、民法715条1項により、原告らに対して、原告らが被告Cの行為によって受けた損害を賠償する義務がある。被告Cの民法709条に基づく責任と被告銀行の民法715条に基づく関係は、いわゆる不真正連帯と解するべきである。
3 原告Aの精神的損害
原告Aは、日本語を習得したいという被告Cにテキストを渡してあげようという善意を持って、被告Cの要求に応じ、自宅に赴いたものであるが、被告Cの強姦行為等によって、善意と自身の性的自由とを踏みにじられ、その当時、非常な恐怖に陥れられ、その翌日以降も再び被告Cから内線電話で呼び出しがかかるのではないかと恐怖のうちに過ごすようになり、多大なる精神的苦痛を受けたこと、これに加えて本事件以降における上司のきつい指示や非難等の言動によって精神的に非常に落ち込み、体調を崩してしまい、その点でも精神的苦痛を受けたことが認められる。右損害のうち、本事件以降の上司らの言動による損害は、被告Cの原告Aに対する強姦等に関連して引き起こされたものであって、それらによって生じた精神的損害は、被告Cの不法行為と相当因果関係のある損害というべきであり、原告Aが受けた精神的苦痛を慰謝するには、金300万円の慰謝料をもって賠償するのが相当である。
4 原告Bの精神的損害について
原告Bは、被告Cの強制わいせつ行為によって、相当の精神的苦痛を受けたことに加えて、本事件以降の上司らの対応によって精神的苦痛を受けたことが認められる。これら事実に起因する損害は、被告Cの原告Bに対する強制わいせつ行為に関連して引き起こされたものであって、それらによって生じた精神的損害は、被告Cの不法行為と相当因果関係のある損害というべきものであり、原告Bが受けた各精神的苦痛を慰謝するには、金70万円の慰謝料をもって賠償するのが相当である。被告らの不法行為による損害として相当因果関係の範囲内と認められる弁護士費用の金額は、原告Aについては金30万円、原告Bについては金7万円とするのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、715条
- 収録文献(出典)
- 判例時報1706号146頁、判例タイムズ1032号172頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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