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I産業寮母解雇事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
I産業寮母解雇事件
事件番号
平成11年(ヨ)第10124号
当事者
その他債権者 個人1名

その他債務者 A産業株式会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2000年04月24日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 債務者は、不動産管理、福利厚生施設の管理運営等を業とする会社であり、債権者は平成11年4月15日に、住込みの寮母として債務者に雇用された。

 債務者の課長Bは、同年7月頃寮管理人の妻から債権者の勤務状況を聞いた際、食器の汚れが落ちていない、清掃が不十分である等の苦情を受けたが、債権者は入社後間もないので良く教育するよう指示し、債権者には食器の洗い方等について苦情が来ている旨伝えた。

 同年9月7日、Bが寮を訪問した際にも、管理人夫妻から債権者の勤務態度に改善が見られない旨の訴えがあり、これを受けてBは債権者に注意事項を指示するなどしたが、債権者からの異動希望については拒否した。同年10月6日に、Bが寮を訪問した際にも、管理人夫妻から債権者の勤務態度が変わらないとの報告がなされ、課長が債権者に注意すると、債権者は同年6月19日に、管理人から仕事の話があると言われて食事に同行したところ、帰途強引にホテルに連れ込まれ、極力抵抗して性交渉は免れたこと、管理人から一方的にアダルトビデオを渡されたり、猥褻電話を受けたりしたこと、清掃作業中いきなり抱きつかれたこと、8月中旬頃からは管理人の性的嫌がらせはなくなったものの、妻から勤務態度が悪いと言わせ、退職に追い込もうとするようになったことなど性的被害を受けている旨申し立て、寮から転居し、翌日以降就労しなくなった。
 債務者は、債権者及び管理人双方から事情聴取を行い、両者の性交渉等は合意に基づくものであるが、債権者はセクハラを訴えて転居し、出勤しないことから、もはや就労意欲はないと判断し、同月19日に解雇予告手当を支払い、債権者に対し解雇の意思表示をした。これに対し債権者は、解雇は合理的な理由がなく無効であると主張して、地位保全と賃金支払いを求めた。
主文
1 債権者の申請を却下する。

2 訴訟費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 平成11年6月19日に、債権者と管理人はわざわざ寮外で一旦待ち合わせをした上で出かけており、同日の同行は管理人の妻に秘密にされていることや単なる仕事の話のためでないことは債権者の当然認識していたと推認されるし、いかに強引に誘われたからといって、その後に予想される事態を考慮すると意に反してラブホテルに入室するなどということは通常考え難い。

 課長Bは陳述書において、債権者と面談の際、寮から転居するよう指示したとの事実を否定し、むしろ転居を慰留したが聞き入れられなかった旨記載しているところ、Bがいきなりセクハラ被害を訴えられ、その裏付け調査等もしないまま、避難を勧告することは考え難く、その陳述書の記載の信用性は高いというべきである。

 債権者と管理人との間に性的な交渉等が存したことは認められるものの、それが債権者の意に反して管理人から一方的に仕掛けられたものであって、債権者が精神的・肉体的に被害を被っていたとか、転居が債務者の指示によるものであったとかの事実は認められない。それにもかかわらず、債権者は債務者から勤務態度の不良を追及されると、突然、管理人からのセクハラ被害を訴え、住込寮母としての条件で雇用されていたにも拘らず、自ら転居し、以後就労していないのであるが、これは本来勤務態度の不良とは関係のない事実を持ち出して自らに対する責任追及を転嫁しようとしたものというほかなく、債権者の就労拒絶には正当な理由があるとは認められない。債権者は10月16日の債務者からの再度の事情聴取に対して、要求された弁明にも応じようとはしておらず、このような債権者の態度からすると、もはや債権者に就労意思がないものと認定した債務者の判断は相当というべきである。そうすると、就業規則所定の「やむを得ない事由が発生したとき」に該当するとしてなされた本件解雇には合理的理由があると解され、解雇権を濫用したものとは認められない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例796号87頁
その他特記事項