判例データベース

宮城県大学院生控訴事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
宮城県大学院生控訴事件
事件番号
仙台高裁 − 平成11年(ネ)第278号
当事者
控訴人(附帯被控訴人) 個人1名

被控訴人(附帯控訴人) 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年07月07日
判決決定区分
変更
事件の概要
 被控訴人(原告)は、平成7年4月、A大学の博士課程に進学し、控訴人(被告)の指導を受けていたが、A大学研究科講座在学中に、控訴人から性的な言動を受け、性的な関係を強要されるなどの人格権侵害を受けたほか、被害申告を受けての事実調査の過程においても控訴人が虚偽の弁明をするなどして、著しい精神的苦痛を受けたとして、控訴人に対し慰謝料1000万円を請求した。第1審では基本的に被控訴人の主張を認め、控訴人に対して慰謝料として750万円の支払いを命じたことから、被告はこれを不服として、控訴に及んだものである。
主文
1 本件控訴を棄却する。

2 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文1項を次のとおり変更する。

 控訴人は、被控訴人に対し、900万円及びうち750万円に対する平成10年3月26日から、うち150万円に対する平成12年1月27日から各支払い済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。

3 控訴費用は、控訴人の負担とし、附帯控訴費用はこれを3分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
判決要旨
 被控訴人と控訴人との関係は、平成6年10月中旬以降、次第に教育上の支配従属関係が強化されていったものであり、それといわば比例するような形で控訴人の被控訴人に対する性的行動がエスカレートしていったもので、このような状況の下で、平成7年5月頃から不安神経症に罹患し、その症状に改善の見られなかった被控訴人が、控訴人の行為の真の意味を自覚し、適切な対応措置を講ずることができずに、控訴人による諸行為をいわばなす術もないままに受け続けざるを得ないでいたものである。そして、同年8月交際相手と別れることを余儀なくされ、控訴人と3回目の肉体関係を持ったことで惨めな気分に陥っていた被控訴人に対し、控訴人が非情な言葉を吐いたことなどがきっかけとなって、被控訴人は、次第にその行為の真の意味と自らの立場を認識し始め、以降、控訴人の要求を拒んだり、第三者に自己の被害を訴えることができるようになり、平成9年4月、組合を通じてセクハラ被害を理由とする控訴人の懲戒要求をするに至ったものと理解することができる。

 また、控訴人は、被控訴人がいわゆるセクハラ行為があったとしている平成6年10月中旬から平成8年3月までの間は、論文作成や研究発表等の被控訴人の業績ができあがった時期と重なっており、「極限的」とでも表現せざるを得ないようないわゆるセクハラ行為を受けながら、論文作成や共同発表に関わる指導が継続的に行われたというのは不可解であり納得できないと主張するが、この時期は、被控訴人にとって、自己の研究者としての将来を左右しかねない論文作成や研究発表を控えていたので、これらの作業や評価につき影響力を持つ控訴人の意思に逆らえなかったし、これに加えて、被控訴人は不安神経症に罹患しており、控訴人の行為に対し適切な対応措置をとり難い心理状態にあったことが認められるのであるから、控訴人の指摘する事情を考慮しても、被控訴人の主張を一概に不可解と論難するのは当たらない。

 控訴人は、本件行為に出たのは、被控訴人が控訴人に対し恋愛感情を抱いているとの誤信に基づくもので、控訴人がそう誤信したことについては被控訴人にも責任があるから、これを慰謝料算定において考慮すべきである旨主張するが、被控訴人が博士課程に進学した平成7年4月まで被控訴人が自己の指導に当たってくれた控訴人に恩義を感じ、かつ師弟間における信頼関係の形成を望んでいたことは明らかではあるものの、それ以上の感情や態度をもって接していたとまでは認められないし、被控訴人が博士課程に進学後もこの基本的姿勢には変わりがなかったものであるところ、控訴人において、被控訴人が不安神経症に罹患していることを知ってからは、これを奇貨として、被控訴人をして控訴人の意思に逆らえないように仕向けた挙句、肉体関係を結ばせるまでに至っているものであって、被控訴人が控訴人に対して恋愛感情を抱いているものと誤信したものとは到底認められず、控訴人の主張はその前提を欠き、採用できない。
本件に至る経緯、控訴人の応訴態度、本件の難易性の程度、慰謝料認容額等の事情を考慮すると、控訴人が負担すべき被控訴人の弁護士費用は、150万円とするのが相当である。よって、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し、慰謝料750万円と弁護士費用150万円及びこれらに対する遅延損害金の支払いを求める限度で正当と認容すべきである。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
その他特記事項
(*第1審 1999年5月24日 仙台地裁)