判例データベース
宮城県大学元教授名誉毀損事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 宮城県大学元教授名誉毀損事件
- 事件番号
- 仙台地裁 - 平成12年(ワ)第1584号、仙台地裁 - 平成13年(ワ)第857号
- 当事者
- 原告個人1名
被告1584号 個人2名
被告857号 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年03月14日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、T大学の男性教授であり、被告らは同大学の女子学生である。被告らは、T大学の副手であったHが原告に強姦されたとして提起した損害賠償訴訟を支援する「仙台性暴力裁判原告支援の会」の一員として、平成10年12月14日、T大学内において、原告のセクハラ行為等を告発するパンフレットを100部以上頒布した。その内容として、(1)原告が学生部長であった平成8年10月下旬、大学祭の打ち上げのためのコンパの席で、原告が酒に酔って学生間の男女交際の話題に言及した際、女子学生Dに対し、「Dは可愛いから犯したい。」と発言したこと、(2)たまたま居酒屋に居合わせた女子学生Eに対し「どうしてあんな奴と付き合っているんだ。」と発言したほか、更に抱きついて「Eは可愛いなあ。」と発言したこと、(3)大学祭終了後、Fが持ち込んだのではないにもかかわらず、カラオケ機材を片付けないことについてFを怒鳴りつけたこと、(4)研究室における飲酒の際、男性講師Gが原告の傲慢な態度に抗議したことに対して、殴る蹴るの暴力行為に及んだことが記載されていた。
原告は、Hとの関係はプライベートな時間に、かつHも原告に対して好意を抱いている中で行われたものであり、Hの別件訴訟は原告が強姦など働いていないにもかかわらず提起された冤罪事件であって、H側に立ってこれを支援し原告を強姦犯人に仕立て上げるチラシを頒布することは、公共の利害に関することではないこと、本件コンパの席で、原告が「犯したい。」旨の発言をしなかったことは同席した学生の証言から明らかであること、Gとつかみ合いになったことはあるが暴力を振るった事実はないこと等を主張し、本件パンフレットによって名誉を毀損されたとして、これを頒布した被告らに対し、連帯して金500万円の損害賠償を支払うこと、地元新聞に謝罪文を掲載することを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告は、本件記事において指摘された行為の当時、T大学の教授で、かつ学生部長の地位にあったから、学生を教育する立場にある原告の大学教授としての適格性に関する事実は、公共の利害に関する事実であるところ、本件記事の内容は、いずれも大学教授としての適格性に関する事実であると認められる。
被告らは、いずれも「仙台性暴力裁判原告支援の会」の会員であり、同会は性暴力の被害に遭った複数の原告を支援すること、その支援を通じて社会一般のセクシャルハラスメントの根絶を目的としており、その活動の一環として機関紙を発行していたこと、本件記事の内容は上記のエピソードを中心として、別件訴訟の被告となっている原告は他にもセクハラ行為等を行っており、教育者として、人間として最低であることを主張し、Hの別件訴訟への支援を呼びかけるものであることからすれば、本件配布行為は、大学当局、教職員及び学生のセクシャルハラスメントに対する関心を高め、それを根絶することを目的としてされたものであり、公益を図る目的でされたものである。
学生を教育する立場にある大学教授としての適格性に関する事実は公共の利害に関する事実であるから、原告の人格に関する事実の摘示があったからといって、本件配布行為が人格攻撃を主目的とし、公益を図る目的を有さずにされたものと認めることはできない。さらに、原告を大学から放逐することを目的としていたとしても、セクシャルハラスメントの根絶及び教育者としてふさわしくない者を批判することは、最終的にはそのような行為者を教育現場から排除することに行き着かざるを得ないものであるから、原告を放逐するとの目的を有していたことから、本件配布行為が公益を図る目的を有さずにされたものとなることはないといわなければならない。
本件記事の内容のうち、本件コンパにおける原告のセクハラ行為(1)、(2)は、いずれも事実であると認められ、(3)カラオケ機材の片付けをしなかったことについて、責任のないFを怒鳴りつけたことも、少なくとも重要な部分において真実であり、(4)Gに暴力を振るったことについては、Gも酒に酔って原告を非難する発言をするなど、原告に同情すべき点が多々あり、暴行の態様についても喧嘩の面が強いが、つかみ合いになった後の暴行は原告が一方的に行ったといわざるを得ないものであり、真実であるから、原告の請求は理由がない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 判例時報1792号109頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
仙台地裁 − 平成11年(ワ)第150号、仙台地裁 − 平成11年(ワ)第825号 | 棄却(確定) | 2001年02月20日 |
仙台地裁 - 平成12年(ワ)第1584号、仙台地裁 - 平成13年(ワ)第857号 | 棄却(控訴) | 2002年03月14日 |