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東京Y高校教師免職等事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
東京Y高校教師免職等事件
事件番号
東京地裁 - 平成9年(行ウ)第34号 戒告処分取消請求、東京地裁 - 平成9年(行ウ)第99号 免職処分取消請求
当事者
原告個人1名

被告東京都教育委員会
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年05月31日
判決決定区分
戒告処分取消請求事件 却下、免職処分取消請求事件 棄却
事件の概要
 原告は、平成8年から都内の高校の産休補助教員を勤めた後、同年4月に被告に1年間の条件付採用の教諭として採用され、都内のY高校定時制課程の教諭として着任した。

 文部省は、毎年公立学校の新任教員のうち、各教育委員会が推薦した者を対象に洋上研修を実施しており、平成8年7月にも新任教員431名が参加して洋上研修を実施した。原告は、被告から推薦を受けて洋上研修に参加したが、参加者を班別に分けて行う研修の中で、(1)他の班員を「サル」と呼ぶなど嘲るような発言をし、洋上運動会の班名を決定する際に「マスかきザルか、ロリコン変態がいい、それは俺の趣味だ」といった発言をし、(3)女性班員に船内で出会った際に頭突きのような行動をし、(4)朝礼の際、前に並んだ女性班員に対し、背後から腰部をなぞり、何をするのかと問われたのに対し、「性的に感じるかどうか調べたんだ」と答え、(5)船内廊下で女性班員から「酒臭い」と言われたことに対して、同人らに息を吹きかけ、(6)船内廊下で、女性班員の脇腹をつねるといった言動をした。これらについて、文部省を通じてY高校長らに連絡もした上で対応が協議されたが、結局原告が反省の様子を見せたことから、予定通り最後まで研修を受講させた。
 原告は帰京後、校長らと面談の上、事実概要報告を含む反省文を作成し、校長から報告を受けた被告は、原告から事情聴取を行い、事実関係を確認した上で、洋上研修における原告の言動について、地方公務員法33条(信用失墜行為)を理由に11月14日付けで原告を戒告処分とした。また、その際、口頭で、平成9年4月以降の本採用はない旨を伝え、その後の校長らの報告も踏まえ、平成9年3月末日付けで原告を免職処分とした。これに対し原告は、本件戒告処分、免職処分は、理由となった事実の一部に誤りがあるし、社会通念に反した著しく重い処分であって無効であると主張して提訴した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 本件戒告処分について

 被告が本件戒告処分の理由とする(1)ないし(6)の各行為を行った事実が認められ、これら原告の行為が、いずれも全国から推薦を受けた初任者教員に対する洋上研修の場で行われており、行為の内容も研修の内容及び目的とかけ離れた性質及び態様のものであり、特に同じく研修参加者である女性教員の身体を理由なく触り、性的な言葉を述べた行為により女性班員が研修のカリキュラムの一つである洋上運動会に参加したくないと述べるなど、本件洋上研修の円滑な実施にも混乱を生じさせたことなど諸般の事情を考慮すれば、原告の行為が地方公務員法33条に規定する信用失墜行為に該当するとして被告が原告に対して行った本件戒告処分が、社会通念上妥当を欠くものとはいえず、被告が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超え、これを濫用したものと判断することはできない。

 原告は、(1)ないし(6)の行為は、本件洋上研修が意義あるものとなるよう、班員に緊張感を持ってもらい、班員の活発な発言を促し女性班員とスキンシップを図り、班をまとめ上げようとした等の動機に出たものである旨主張するが、本件洋上研修の参加者が高揚した心情になることはあり得るものと認められるものの、本件洋上研修はあくまでも新任教育公務員としての研修の場であるから、行動には自ずから節度が求められることはいうまでもなく、原告の行為は、その主観的な動機に関わらず、初任者研修に参加する新任教員の行為として著しく相当性を欠くものといわざるを得ない。

2 本件免職処分について

 条件付採用期間中の職員といえども、既に試験又は選考の過程を経て勤務し、現に給与の支給も受け正式採用になることの期待を有するものであるから、条件付採用期間制度の趣旨及び目的からすれば、条件付採用期間中の職員に対する分限処分については任命権者に正式採用職員の場合に比較してより広い裁量権が与えられているものと認められるが、それは純然たる自由裁量ではなく、その処分が合理性をもつものとして許容される限度を超えた不当なものであるときは裁量権の行使を誤った違法なものとなるというべきである。

 東京都において条件付採用期間中の職員の分限に関する条例は未だ制定されていないが、人事院規則11-4(職員の身分保障)9条に準じ、勤務成績の不良なこと、心身に故障があることその他の事実に基づいてその官職に引き続き任用しておくことが適当でないと認められる場合に限り許されるものと解するのが相当である。
 本件洋上研修における原告の(1)ないし(6)の行為からすれば、原告は教員として参加している研修において著しく節度及び教員としての自覚に欠け、女性教員に対し放縦ともいえる行動をとっていたものであり、その各行為がいずれも本件洋上研修における短期間の行動であり、かつ、原告は教科の学習指導能力については劣っている点はなかったと認められることを考慮してもなお、原告については、学校という団体生活の中で規律と礼節を保ちつつ、人格形成の途上にある高等学校の男女生徒を対象として学習面から情操面までにわたって生徒を指導監督すべき教育公務員としての適性に欠けるものといわざるを得ず、被告が、原告の条件付採用期間中の行動から全体とし勤務成績が良好でないと評価し、教師としての適格性を欠くと判断したのはやむを得ないところであり、その判断に基づいてなした被告の本件免職処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。
適用法規・条文
地方公務員法33条
収録文献(出典)
労働判例796号84頁
その他特記事項
本件は免職処分について控訴された。