判例データベース
N電鉄観光バス仮処分事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- N電鉄観光バス仮処分事件
- 事件番号
- 長野地裁 − 昭和40年(ヨ)第53号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 N電鉄株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1965年10月19日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- 被申請人(会社)は、地方鉄道業、自動車運送業などを営む会社であり、申請人は昭和33年3月から会社に雇用され、バスの運転手として勤務していた。
申請人は、妻と2人の子供と居住していた35歳当時、18歳の車掌Aと昭和39年2月から9月頃までの間しばしば情交関係を結び、Aを妊娠させるに至り、その結果Aは妊娠6ヶ月で妊娠中絶手術を受け、昭和40年3月に任意退社した。なお、申請人には職場内において他にも2,3人の車掌との間で不純な交渉があったとの風評があり、会社もこれを聞知していた。
会社は、昭和40年3月3日、Aの妊娠中絶を知り、事情を調査したところ、申請人がAと関係があった事実を認め謝罪したため、申請人を懲戒解雇すべく、労働協約の規定により人事委員会を招集して申請人の懲戒解雇を諮問した。同委員会は懲戒解雇は苛酷であると判断したが、職場の風紀維持の点から申請人の解雇もやむを得ないとの結論に達し、申請人を通常解雇、できれば依願退職の方法による旨決議した。会社はこれを受けて、申請人に対し直ちに5月一杯で退職するよう退職願を提出するよう勧告したが、申請人が退職願を提出しないまま5月31日を経過し、会社は退職辞令及び退職手当の受領を催告したところ申請人がこれに応じないため、退職辞令を送付するとともに、法務局に対し30日分の解雇予告手当及び退職金を供託した。
これに対し申請人は、本件は純然たる私生活上の男女間の不品行であって解雇事由に該当しないこと、本件解雇は労働協約に定める人事委員会に対する諮問を欠いてなされたものであることを主張し、解雇無効による従業員としての地位保全を請求した。 - 主文
- 1 申請人が被申請人の従業員である地位を仮に定める。
2 被申請人は申請人に対し、昭和40年6月から本案判決確定にいたるまで、1月金27696円の割合による金員を毎月25日限り支払え。
3 申請費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 申請人は妻子ある身で未成年の女子職員Aと長期にわたって情交関係を持ち、その結果Aを妊娠せしめたものであって、その行為はその性格態様ならびに両者の家庭的及び職務上の身分に照らせば、単なる私生活上の事故というに止まらず,少なからず社会の風紀を紊し、ひいては会社内部の風紀をも紊したものということができる。しかしながら、さらに進んでこの行為が世間に広く伝わり、会社の信用を害するような事態を生じせしめたとの点については、これを窺うに足る主張及び資料がなく、受けた損害についても、Aが退社して車掌の人員が1名減少したという損害のほか、なんら具体的な主張も資料もない。もっとも、会社の職場環境からして、かかる事件が職場及び職員の家庭へと伝播するであろうことは容易に想像し得るところであり、かくなる上は求人難の折から会社が車掌の募集に更に心を痛めるであろうことは予想されるけれども、いやしくも解雇の事由とする以上、被解雇者の利益を保護するうえからも、単なる漠然たる予想や推測では足りず、被処分者の責任を追及するに足りる十分な具体的事実の存することを要すると解しなければならない。そうであるなら、申請人の非行が労働協約に定める解雇事由「破廉恥罪を犯し、又は著しく風紀・秩序を乱して会社の体面を汚し、損害を与えたとき」に該当するとの疎明は未だ不十分であって、本件解雇はその事由を欠くものといわなければならず、本件解雇は結局協約の規定に違反するものであって、無効といわなければならない。
- 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事判例集16−5−747
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
長野地裁 − 昭和40年(ヨ)第53号 | 認容(控訴) | 1965年10月19日 |
東京高裁 − 昭和40年(ネ)第2496号 | 取消し | 1966年07月30日 |
長野地裁 − 昭和40年(ワ)第177号 | 棄却 | 1970年03月24日 |