判例データベース
N電鉄観光バス仮処分控訴事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- N電鉄観光バス仮処分控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 昭和40年(ネ)第2496号
- 当事者
- 控訴人(第1審被告)N電鉄株式会社
被控訴人(第1審原告)個人1名 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1966年07月30日
- 判決決定区分
- 取消し
- 事件の概要
- 控訴人会社に勤務する運転手である被控訴人は、18歳の女子車掌Aとしばしば情交関係を結び、Aを妊娠させ、その結果Aは退職するに至った。控訴人は、被控訴人の行為が労働協約に定める懲戒解雇事由「破廉恥罪を犯し、又は著しく風紀・秩序を乱して会社の体面を汚し、損害を与えたとき」に該当するとして、被控訴人に退職願の提出を促し、その提出がなかったことから、これを普通解雇した。これに対し被控訴人は、本件が純然たる私行上の男女間の不品行であって解雇事由に当たらないとして、解雇の無効を主張し、従業員としての地位保全等の仮処分申請をした。
第1審では、被控訴人の行為は単なる私生活上の事故に止まらず、会社の秩序を乱したとしながらも、その程度は軽微であること、この事件が会社や家庭に伝播し、会社が車掌の求人に苦労することは予想されるが、解雇事由というためには漠然たる予想や推測では足りず、十分な具体的事実の存することが必要であり、控訴人はそのための十分な疎明をしていないとして本件解雇を無効とした。これに対し控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 原判決を取り消す。
被控訴人の申請を却下する。
訴訟費用は、第1,2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 運転士及び車掌は同一バス内において長時間勤務を共にし、しかも長距離区間の定期路線バスないし観光バスに乗務する場合にはその勤務の途中で宿泊を共にせざるを得ない特殊な職場環境に置かれていること、これがため業績は運転士及び車掌等直接担当者の勤務状況によって左右される程度が他の業種に比し極めて大であり、しかもその勤務は当該運転士及び車掌の自律にまつほかない面が多いところ、一般に年長で勤務年数も比較的長い運転士が若年の車掌に対し強い影響力を持っているので、運転士の勤務内容殊にその女子車掌に対する関係については業務運営上格別の配慮をなす必要の存すること、また職場環境の特殊性から男女間の風紀問題が発生し易い機縁が多く、運転士及び車掌間に不純な関係が生じたときは、それがそのまま職場内に持ち込まれて乗務態度にまで表れ規律を弛緩させる虞があるため、控訴会社はそのバス事業を正常に運営する必要上運転士及び女子車掌間の風紀を維持するよう厳に従業員を戒め、自動車運転士服務必携に、職場規律の1項目として「職場内の異性との交際については、特に慎まなければならない」旨摘示して運転士の注意を喚起する等の措置を講じていること、女子車掌の平均年齢は約20歳で勤務年数が比較的短く、特に求人難の傾向が年毎に深まってきている最近の情勢から、所要人員のためにも風紀維持の必要性がいよいよ痛感されるようになったこと、そこで控訴会社は近年風紀問題について一層厳格な態度をもって臨み、宿泊先で同乗の女子車掌に対して不都合の行為をした運転士を責めてこれを退職せしめた事例も生じていること、しかるところ女子車掌Aの入院手術によって被控訴人の非行が露になり控訴会社女子従業員等に不安に念を抱かせただけでなく、卒業生を控訴会社に就職させている地元学校の関係職員に控訴会社従業員の風紀に対する不信感を与え、控訴会社の求人に支障を及ぼすべき情勢をも生じたことがいずれも疎明される。以上、被控訴人の所為はまさに協約中「著しく風紀・秩序を乱して会社の体面を汚し、損害を与えたとき」と規定されてある解雇事由に該当するものといわざるを得ない。
何故ならば,妻子を有し分別ある年配の運転士たる被控訴人が無責任にも同じ職場に勤務する未成年の女子車掌と長期間にわたり不倫な関係を結んだ挙句同女を妊娠させ、その中絶手術を受けて退職するのやむなきに至らしめた行為は、それ自体すでに控訴会社従業員の風紀を紊し職場の秩序を破ること著しきものであり、これによって現に当該女子車掌の退職、女子従業員の不安動揺、求人についての悪影響等を招来したほか、バス事業を経営する控訴会社の企業者としての社会的地位、名誉、信用等を傷つけるとともに多かれ少なかれその業務の正常な運営を阻害し、もって控訴会社に損害を与えたと認められるからである。元来運転士及び車掌間の風紀維持はバス事業運営のため経営者として最も留意すべき重要事項であるから、控訴会社が運転士たる被控訴人によって引き起こされた本件の如き態様程度の風紀紊乱に対し、事業体の名誉信用を維持し、その正常なる業務の運営を計るうえに到底これを放置し得ないものとして協約所定の該当条項を適用し被控訴人を企業の埒外に排除したのは、その立場上まことにやむを得ない措置であったと言わざるを得ない。これを解雇権の濫用であるとする被控訴人の主張は全く理由がない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 判例時報457号60頁
- その他特記事項
- 本件は本訴に移行した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
長野地裁 − 昭和40年(ヨ)第53号 | 認容(控訴) | 1965年10月19日 |
東京高裁 − 昭和40年(ネ)第2496号 | 取消し | 1966年07月30日 |
長野地裁 − 昭和40年(ワ)第177号 | 棄却 | 1970年03月24日 |