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N電鉄観光バス仮処分本訴事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
N電鉄観光バス仮処分本訴事件
事件番号
長野地裁 − 昭和40年(ワ)第177号
当事者
原告個人1名

被告N電鉄株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1970年03月24日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、被告に雇用されるバス運転手であり、昭和40年当時35歳で、妻と2人の子を有する身でありながら、当時18歳の女子車掌Aとしばしば情交関係を重ね、Aは妊娠中絶手術を受けて被告を退職するに至った。被告はこの原告の行為が労働協約に定める懲戒解雇事由に該当するとして、同年5月31日をもって原告を通常解雇したが、原告は本件情交関係は私行上の男女間の不品行であり解雇事由に該当しないとして、解雇無効による従業員の地位確認等を求める仮処分の申請を行った。
 仮処分の第1審は、申請人(原告)の主張を認め、本件解雇を無効としたが、第2審では披控訴人(原告)の行為は従業員の風紀を乱し、職場秩序を破ること著しきものとして、本件解雇を有効としたことから、原告が解雇無効による雇用関係存在確認等を請求して本訴に及んだものである。
主文
 原告の請求をいずれも棄却する。

 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告は、Aの父から妊娠の責任をとれと難詰され、30万円の解決金を要求されたこと、原告は見舞金1万円と菓子折を持参してAの父に謝罪したこと、被告人事課長らからの事情聴取の際に自分がAを妊娠させたことを否定しながらも、涙を流して不始末を詫び穏便な処分を願い、人事部長宅でも不始末を詫びたことが認められ、これらに徴すれば、原告とAとの情交関係は、Aの自由な合意によるのではなく、年輩の運転士から新参の車掌という弱い立場につけこまれた強いられた関係というべきであり、またAの妊娠は当時他の男性と情交関係があったことを認めさせる明らかな証拠がないから原告との情交関係によって生じたものと認めるのが相当である。

 被告は従業員約2000名のうち女子従業員300名を擁し、そのうち230名が車掌であり、本件営業区においては、従業員150名のうち運転士70名、車掌70名で、うち60名が女子で占められており、運転士の平均年齢33歳・勤続年数約8年に対し、女子車掌は平均年齢19歳、勤続年数3年弱となっていること、運転士と車掌は2人だけで同一バス内において長時間勤務を共にし、また長距離区間の定期バスや観光バスに乗務する場合には、勤務の途中で宿泊を共にせざるを得ない特殊な職場環境に置かれているため、男女間の風紀問題が発生し易い機縁が多く、運転士と車掌間に不純な関係が生じたときは、事故や不正行為の原因となることもあり、乗務計画にも差支えを生ずるばかりでなく、職場の規律を弛緩せしめる虞があるため、被告は平素従業員を戒め、特に運転士に与える服務必携にも、職場規律の1項目として「職場内の異性との交際については、特に慎まなければならない。」と摘示してその注意を喚起し、また宿泊も別の箇所に設ける等の配慮をしていることが認められる。このような状況のもとにおいて、原告が本件のような非行を敢えてしたことは、著しく風紀・秩序を乱したものというべきこと明らかである。
 原告の本件非行の噂は、単に職場内に止まらず、地域に広まり、被告の女子従業員等に不安の念を抱かせたばかりでなく、卒業生を被告に就職させている地元学校の関係職員に被告従業員の風紀に対する不信感を与え、現に地元学校からの就職希望者が減少する結果となったり、貸切りバスの運転士や車掌が乗客から本件非行にかこつけて揶揄されたりしたことがあったこと、本件の問題を契機にして車掌の一員であるAを退職の余儀なきに至らしめ、被告はその補充に他の車掌に超過勤務あるいは休日出勤をさせ、そのための手当を支給せざるを得なかったことが認められる。この事実によれば、原告は本件非行によって被告の体面を汚し、かつ、損害を与えたものであることが明らかであるというべきである。そうだとすれば、原告の本件非行は労働協約に定める懲戒解雇事由に該当し、これに対して被告のなした通常解雇処分は有効であるというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
判例時報600号111頁
その他特記事項