判例データベース
H化成組合長解雇事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- H化成組合長解雇事件
- 事件番号
- 広島地裁 − 昭和42年(ヨ)第450号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 H化成株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1968年02月14日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 被申請人は、ゴム履物、ゴム工業用品等を製造する会社であり、申請人(昭和7年11月生)は昭和27年10月に被申請人に雇用された従業員である。申請人は昭和38年6月に被申請人会社労働組合組合長となり、組合専従のため同月付けで休職、昭和39年6月復職、昭和42年6月に再び組合長として組合業務に専従していた。
申請人は、昭和41年5月、被申請人の未婚の女工A(昭和21年6月生)と情交関係を結ぶに至り、その後も情交関係を結んだ。ところが、この関係が被申請人女子従業員中にAが申請人に懐胎させられ、堕胎した如くに喧伝されたため、Aは昭和42年4月に退職し、郷里に帰った。被申請人は、この風評を知ってAの同僚等から事情聴取するとともに、A宅を訪れて調査したところ、申請人がホテルにおいてAを強姦したとの結論に達したので、懲戒委員会を開催し、昭和42年10月に申請人が組合長を辞任した後、就業規則に基づき申請人を通常解雇した。なお、被申請人は申請人の行為は本来ならば就業規則に定める懲戒解雇事由に該当するところ、寛大な措置として通常解雇にしたと主張した。
これに対し申請人は、強姦があったとされた日にAと会ったことはあるが、強姦はもちろん情交関係を持ったことはないこと、法定代理人たるAの父による強姦の告訴は、検察庁によって告訴無効による不起訴の裁定がなされていること、情交関係が仮にあったとしても、被申請人は従来より男女間の規律につきさほど厳格な態度をとらず、以前この種事案についても解雇をもって臨まなかったことを挙げ、Aを妊娠させたわけでもない申請人を解雇するのは違法ないし解雇権の濫用に当たると主張した。また申請人は、被申請人が企業秩序の維持と無関係な私的非行行為を捏造して申請人を解雇しようとする真の意図は、申請人の活発な労働組合活動を嫌悪し、その報復手段とするものであり、不当労働行為に当たると主張し、本件解雇の無効による従業員としての地位の確認及び賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 本件申請をいずれも却下する。
申請費用は申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 就業規則に定める通常解雇事由は、いずれも従業員の非行を対象としたものとはいい難いから、申請人の所為は通常解雇事由に該当しないというべきであるが、その所為が従業員の非行を事由とする懲戒解雇事由に該当する場合は、これを懲戒解雇としないで、被解雇者にとり懲戒解雇より有利な通常解雇とすることは許容されると解するを相当とする。
申請人とAとの情交が婚姻を前提とするものであったとの疎明はなく、一方申請人が第二ロール課工長、組合長として指導的立場にありかつ妻子を有しており、一方Aが未成年の女子工員で独身女子寮に入寮中であったこと等からすると、本件情交は申請人が積極的にその機会を作り出したものと疎明され、Aが本件を契機として退職したこと、被申請人が従業員約2050名を有し、作業内容、賃金政策上、その半数弱は中、高校卒業の年少女子を雇用しているもので、近時年少女子の就職希望者が減少傾向にあるため、被申請人においてはその対策に重点的配慮をしていること、本件情交関係が被申請人の従業員父兄間に風紀に対する不信感を与え、被申請人の女子従業員の確保に支障を及ぼすおそれのあることを考慮すると、申請人の所為は就業規則中解雇事由の定めである「不正不義の行為を為し従業員としての体面を汚したとき」「前条各二号乃至第11号に該当しその情状の重いとき」に当たると認めるのが相当である。
申請人は本件解雇が不当労働行為であると主張するところ、被申請人は申請人の活発な組合活動を嫌悪し、種々組合幹部に対し懐柔工作を行ったことは疎明し得るが、被申請人の本件解雇の決定的要因は申請人の本件非行を理由とするものというべきであり、申請人が労働組合長であったこと又はその組合活動が本件解雇の決定的要因となったものとは疎明し難い。以上の次第で、本件解雇の無効を前提とする申請人の本件仮処分申請は、いずれも却下すべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事判例集19−1−101
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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