判例データベース
鉄道フード懲戒解雇事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 鉄道フード懲戒解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 昭和50年(ヨ)第2202号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 鉄道F株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1975年11月18日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 被申請人会社(会社)は、国鉄施設内において、給食・喫茶・飲食等の提供販売を目的とする会社であり、申請人は、国鉄本社内職員食堂の調理係として勤務していた。
申請人は、昭和49年9月4日午後10時頃、レジ係の女性Aに会って話したいと考え、Aの自宅に電話して睡眠中のAを起こしてもらい、話がしたいから土曜日に上野公園に来て欲しいと告げた。Aは突然のことで「ハイ」と返事をしたところ、兄から「上京して間もなく、仕事も覚えていないのに駄目だ。下らん内容で夜遅く電話する方も非常識だ。」と叱責された。そのためAは調理主任に申請人を注意して欲しいと告げた。
翌日、調理主任はこの事実を支配人に告げ、更に申請人は前にも女性に嫌がらせをしたから適切な処置が必要であると報告し、それを本社総支配人に報告して、3人で申請人から事情を聴取したが、申請人は黙ったままであったことから、総支配人が、黙っていては認めたことになること、始末書と今後このようなことをしない旨の誓約書を提出すべきことを申し渡した。申請人は始末書、誓約書を提出しなかったところ、会社は申請人の行状について調査をし、(1)昭和43年5月頃、調理補助Bのアパートの周りを徘徊し、戸を叩く等してBに強くなじられたこと、(2)昭和46年2月頃、ウエイトレスCを尾行して自宅付近を徘徊したこと、(3)昭和46年夏頃、調理補助Dを帰宅途上で待ち伏せし、喫茶店等に誘おうとしたので、Dは下車駅を変更したことが3回位あったこと、(4)昭和47年2月頃、調理補助E宅に赴き、Eが留守にもかかわらず、その夫がいたことから家に上がりこんだこと、(5)Eの娘の勤務先であるデパートの売り場を問い、Eが教えなかったところ、売り場を徘徊し、会えなかったため、Eに対し嘘を教えたと怒ったこと等の行状を把握した。
会社は、申請人の言動は職場の秩序を乱す所為であり、それは就業規則に定める「従業員としての体面を汚し、又は信用を失うような行為があったとき」に該当する行為で、懲戒解雇に当たるとして、昭和49年10月9日付けで申請人を免職する旨通知した。申請人は、解雇通告を受けた後、総支配人に「将来2度とこのようなことをしないから雇用して欲しい。それができないなら普通解雇として退職金を支給して欲しい」と頼んだが、会社はこれを拒否し、諭旨解雇として退職金は70%減で支給することを決定し、申請人は退職届を提出して退職金を受領したが、その後労働基準監督署の説得により、退職金は70%支給された。しかし、その後申請人は会社に対し、本件解雇は遺法無効であることを主張して、地位保全と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 申請人が被申請人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 被申請人は申請人に対し、昭和49年11月27日から本案判決確定に至るまで、毎月21日限り、金12万6975円を仮に支払え。
3 訴訟費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 申請人のBとCに対する言動について、会社は事実を確かめることができなかったこと、申請人はBの手荷物を運ぶのを手伝った際、Bの友人と3人で行ったものであり、Cに関する件は事実無根であると主張していること、Dの件については、下車駅で待っていて一緒にお茶を飲んだことはあるが、当時Dは43歳の既婚婦人であり、当時申請人に盗難の疑いがかかっていたため、被害者と親しいDに事情を聞くためになした行動であること、Eとその娘の件については、既婚のE宅を訪ねたことはあるが、それはEからいつでも遊びに来るよういわれていたためであり、当初Eは不在であったが、Eが帰宅してからは家族とともに夕食を共にして談笑したものであること、娘のことについても、申請人は「いい身体つきをしているとかいい尻をしている」という趣旨のことを言い、Eが「娘の後を追わないでください。」と注意したことがあること、職場においても申請人は、女性の嫌がるようなことを平然と口にするところがあり、その点ではEが良い感情を抱いていなかったことが一応認めることができる。
使用者が従業員に課する懲戒は、企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を可能ならしめるための制裁罰と理解することができる。したがって、その目的のためには、従業員の職場外の行為であり、職務の遂行には直接関係のない行為であっても、その行為が企業秩序に影響を与える事項であり、また企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれが客観的に認められるような場合には、企業秩序維持確保のために、これを規制の対象とすることが許されると解すべきである。そして、本件においても、申請人のA、D、Eらに関する各所為は職場外での行為が問題とされているが、申請人の職場は女子職員が3分の2を占めており、その行為の対象となった者は申請人と同じ職場の女子職員であり、しかも、申請人はそれらの者には上司の立場にあたるといえなくもないから、それらの者に対する申請人の行動が職場外のそれであるということだけで全く問題にならないとすることはできない。むしろ、職場外の言動であっても、その態様、程度の重大さの如何によっては、同じ職場の他の職員に影響を与え、それが職場の仕事の能率に影響し、ひいては企業の能率に支障を来たす虞のあるような場合として、当該職員の行為が制裁の対象と評価されても止むを得ないこともあり得ると解するのが相当である。
申請人のAに対する件は、電話をかけたのは午後10時頃であったとしても、一般的には電話をかける時間帯としては特に遅い時間ということはできないが、同僚とはいえ、申請人が初めて、それも突然に電話をする時間としては、少なからず分別を欠いた言動といわれてもやむを得ないところがある。しかし、申請人の言動が、直ちに、会社内の企業秩序に影響するものとして懲戒処分に付すべき重大な事由に該当するものというのは、相当でないというべきである。
更にDに関する件については、申請人の所為を特に悪質で制裁を課すべき行為とみることはできないし、E及びその娘に関する件についても、職場内での申請人の言動には、粗野で分別を欠くような印象を与えるところがあるが、それが直ちに非常識な行動であり、制裁に値する言動であると認めることは相当でないというべきである。また、B、Cの件については、申請人の主張のとおり認めることができ、特に非難すべき所為と解することはできない。そうすると、申請人に対して会社が主張する解雇理由の各事実は、いずれも正当な理由が存するとは認められないし、各事実を総合して申請人の言動に対する評価を試みても、申請人については、会社が主張する就業規則の解雇事由に該当する事実を認めることができないというべきである。そうすると、本件解雇は、就業規則の適用を誤ったもので無効というべきである。
そこで、本件解雇が無効であるとすれば、申請人と会社との間には依然雇用関係が存続し、申請人は労働契約上の権利を有している以上、会社が解雇を理由として就労を拒否する限り、申請人は賃金を受ける権利があり、申請人が受領した金員も、賃金として充当され得るものと解すべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例248号58頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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