判例データベース
K観光解雇仮処分事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- K観光解雇仮処分事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和61年(ヨ)第2323号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 K観光株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1988年05月27日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 被申請人は、主に観光バス事業を営む株式会社であり、申請人は、昭和50年6月被申請人に雇用された観光バス運転手である。
昭和60年7月22日、申請人とM(同年3月高校を卒業後被申請人にバスガイドとして入社)は、同じ観光バスに乗って帰社した後、共に呑み屋に入って1時間余りビールを飲み、申請人はMをホテルに連れ込んだ。そのホテルの室で、Mは申請人に衣服を脱がされ、ビールを飲んでいたこともあって抵抗する気にもなれず、情交関係を結んだ。その後Mはホテルを出て申請人から500円を渡されてタクシーで寮に帰った。
同年11月6日、申請人はMに対し謝りたいと言って食事に誘い、30〜40分ビールを飲んだ後、Mを前回と同じホテルに連れ込み、情交関係を結んだ。Mは申請人から2千数百円を渡されて寮に帰った。
Mは1回目の情交関係の後、申請人の同僚運転手でMの身元保証人であったAにその件を打ち明け、Aらの勧めにより昭和61年7月初め頃、申請人との情交関係について書面を作成してAを通じて被申請人に提出した。被申請人はこれを受けて申請人にMとの関係について事情を聞いたところ、申請人は全面的にこれを否定したが、被申請人は申請人とMとの間に情交関係があったものと認め、就業規則に定める懲戒解雇事由「賭博その他著しく風紀を乱す行為をしたとき」に該当するとして、同年7月17日に申請人に対して解雇通告をし、8月17日付けで申請人を普通解雇した。
これに対し、申請人はMとの情交関係を否認し、仮に情交関係が認められるとしても、申請人に実質的な弁明の機会を与えておらず、実質的な事実調査も行っていないから、本件解雇手続きは極めて不公正かつ不公平であったこと、更にMは申請人との情交関係に同意していたし、申請人に妻子のあることを知っていたこと、右情交関係は勤務時間外で、業務と無関係であったこと、Mは申請人との情交関係後も影響なく勤務しており、被申請人に対する影響はなく、本件発覚の契機となったMの手紙は自発的に書かれたものではないし、Mは何ら処分されなかったこと、申請人の勤務態度は非常にまじめであったことを考慮すると、本件解雇は解雇権の濫用であって無効であると主張し、従業員としての地位保全と賃金の支払いを求めた。 - 主文
- 1 本件申請を却下する。
2 申請費用は申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 被申請人は、昭和61年7月11日頃、申請人を呼び出してMとの関係について事情を聞いたが、申請人はこれを全面的に否定し、同月16日、Mと申請人と同席の上事情聴取が行われたが、双方の主張は変わらなかった。また、被申請人は、同月18日の本件解雇通告後も、申請人との間で、労政事務所などで話し合いをしたが、結局解雇に至った。そうすると、被申請人は、申請人から事情聴取を行い、その弁明の機会を与えた上で本件解雇に及んだことが認められる。
Mは申請人に妻子があることは本件行為当時知っていたこと、Mには本件に関し被申請人から何の処分もなかったことが一応認められる。しかしながら、本件情交関係当時、申請人は既に40歳を超えていたのに対し、Mは10代の独身女性であり、Mは本件情交関係については不本意であったこと、Mは、本件が会社内に広まってしまい居づらくなったため、昭和61年9月10日退職したことが一応認められ、また、被申請人では女性のバスガイドが必要であり、会社内の風紀の維持が不可欠のため、本件のようにバスの運転手とバスガイドとの間で情交関係を結んだ場合には、懲戒解雇の方針をとっていること(もっとも、運転手から依願退職の申し出があればこれを認めており、過去10年間にそのような行為のあった者が7人位いたが、いずれも依願退職していること)が一応認められる。さらに本件では2回とも勤務時間中に申請人がMを誘ってその勤務時間終了後情交関係を結んだものであり、申請人の本件行為は職場の秩序を乱したものといえる。
これらの事情及び本件が普通解雇であることを総合考慮すると、本件解雇が合理性を欠くものとは認められず、したがって解雇権の濫用に当たるとはいえない。以上のとおり本件解雇は有効であり、申請人と被申請人との間の雇用契約は昭和61年8月17日をもって終了したものといえる。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例519号63頁
- その他特記事項
- 本件は本訴に移行した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 昭和61年(ヨ)第2323号 | 却下 | 1988年05月27日 |
東京地裁 - 昭和63年(ワ)第16829号 | 棄却(控訴) | 1993年12月16日 |
東京高裁 - 平成5年(ネ)第5384号 | 原判決取消、認容(確定) | 1995年02月28日 |