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K観光解雇仮処分本訴事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
K観光解雇仮処分本訴事件
事件番号
東京地裁 - 昭和63年(ワ)第16829号
当事者
原告個人1名

被告個人3名A、B、C

被告株式会社K観光
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1993年12月16日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告会社は、主に観光バス事業を営む株式会社であり、原告は昭和50年6月に被告に雇用され、観光バス運転手として勤務していた。

 昭和60年7月及び11月の2回にわたり、原告は未成年のバスガイドMと都内のホテルで情交関係を結んだとして、被告会社は就業規則に基づき昭和61年8月17日原告を普通解雇した。本件情交関係については、昭和61年6月に原告と被告A及びBとの間で、その存否等をめぐって、温泉においてお互いに相手を首にしてやるなどと激しい口論をした後に、被告Aからの強い勧めによって作成され、被告会社に提出されたMの手紙(本件手紙)によって被告会社の知るところとなったものである。

 原告は、本件情交関係は存在しないこと、被告会社が情交関係を知る契機となった本件手紙は自発的に書かれたものではないこと等から本件解雇は無効であることを主張して、被告会社の従業員としての地位保全仮処分申請を行ったが、情交関係についてのMの証言は信用できるとして、解雇が有効とされたため、原告が本訴に及んだものである。原告は、被告会社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、被告会社及び被告A、B、Cに対し、慰謝料700万円、未払い賃金・賞与相当額の支払いを求めた。
 本訴に入って、Mは仮処分時から一転して原告との情交関係を全面的に否定したため、Mの証言及び本件手紙の信憑性が焦点となった。
主文
 原告の請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 昭和61年6月21日、原告、被告A、被告Bらは業務で東山温泉に行き、被告A及びBと原告との間で、原告とMとの情交関係の存否をめぐって激しい口論が起こり、その過程で、原告と被告A及びBがお互いに相手を首にしてやると発言した(温泉事件)。

 原告は、本件手紙の作成経緯に照らし、被告Aは原告を解雇してやろうとの意図の下に、Mに無理矢理虚偽の手紙を書かせたと主張する。なるほど、本件手紙が作成されたのは昭和61年7月であって、情交関係を持ったとされる時期とかなり時間的に間隔があり、しかも温泉事件による原告と被告Aらとの感情的対立を背景として、いわばその決着をつけるための手段として、被告AがMに対してその作成を強く求め、Mがこれに応じて作成した面のあることは否定しがたい。しかしながら、未成年で独身のMが職場の運転手であった原告との間で情交関係を持ったことを告白する文書を作成することは並大抵でないことは容易に首肯し得るところであるし、被告会社においては、運転手とバスガイドとが情交関係にあることが発覚した場合、例外なく双方とも退職することになるのが通例であり、そのことはMも了知していたから、本件手紙を自発的に被告会社に提出することは、バスガイドを続けていきたいという気持ちを有する限り、むしろ期待できないのであって、Mが被告Aの強い要求により本件手紙を作成する気になったという過程自体に特段不合理な点はない。

 原告は、Mが2回も情交関係を持たされたホテルの名前や場所を記憶していないとするのは不自然であると主張するが、情交関係を持ったとされた当時、Mは未だ18、9歳であり、しかも3月に上京したばかりで、それまで五反田に来たことはなかったというのであるから、ホテルの場所や名前を明確に認識していなかったとしても不自然ではないこと、そもそもこの種のホテルは名前を確認したうえで利用するようなホテルではないことが一般的であること等の事情を考慮すると、利用したホテルが判明しなかったことをもって、Mの仮処分証言の信用性を左右することにはならない。

 Mは、本件訴訟において、原告との間に情交関係があった旨の証言及び記載は虚構である旨証言するが、Mが原告との情交関係を全面的に否定するようになったのは、原告、両親、上司らの無形の圧力によったのではないかとの疑問があり、これに加え、Mの結婚・出産等の身上の変化がかなりの程度影響しているのではないかと考えられる。

 Mの仮処分証言及び本件手紙は、その細部について曖昧さを否定できないし、被告Aが温泉事件を契機としてMに本件手紙の作成を強く要求した結果、Mがこれを作成したことも否定できないところである。しかしながら、(1)被告A及びBは温泉事件前に既にMから原告との情交関係を打ち明けられていること、(2)本件手紙が被告会社に提出された経緯等からしても、Mが虚偽の内容を本件手紙に記載した事実を認めることはできないこと、(3)情交関係を否定する証言や陳述書については供述変更の動機、過程に疑問があること等の各事情を総合すると、Mが原告と2度にわたり情交関係を持ったという基本的部分に関する限りその信用性を肯定することができる。

 被告会社にあっては、その営業上女性バスガイドが不可欠であって、その確保等のため被告会社内における規律保持が特に要求されていること、及び男性であるバス運転手と女性バスガイドが長時間同乗する勤務形態や宿泊を伴う旅行に同乗する勤務形態が予想されることに照らすと、バス運転手と女性バスガイドとの間における男女関係を就業規則によって原則として禁止し、これに反した場合には「賭博その他著しく風紀を乱す行為をした」ものとして解雇することができる旨定めることには合理性がある。
 原告は、勤務時間中に、被告会社内において、運転手とバスガイドという職務上の関係を利用したり、脅迫的な文言を使用する等してMを誘っていること(もとより、本件は男女間の事柄であって、Mが任意に原告と情交関係を持ったという側面があることを完全に否定することはできないが、最初に情交関係を持った当時、Mは未だ18歳の独身女性で、被告会社に入社して4ヶ月程度しか経っていない新人バスガイドであったのに対し、原告は当時既に40歳を超えた妻子を有する男性であり、被告会社に入社して10年を経過したベテラン運転手であったことを考えると、Mにおいて原告の誘いを断固として断ることができたかどうかは疑問であり、全く任意に情交関係を持ったケースと本件とを同一視することは相当ではない。)、本件解雇が原告の経済的状況等を考慮して普通解雇に留まっていることの各事情を総合すると、本件解雇が解雇権の濫用に該当するとはいえないというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例647号48頁
その他特記事項
本件は控訴された。