判例データベース
D社結婚勧奨退職事件
- 事件の分類
- 退職・定年制(男女間格差)
- 事件名
- D社結婚勧奨退職事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成16年(ワ)第13381号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社
被告 同代表者代表取締役A - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年10月21日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告会社は、ピーアール・パブリシティーの計画、実施等を目的とする社員8名の株式会社であり、被告Aは被告会社の代表取締役である。原告は、平成12年に被告会社に入社し、主にグラフィックデザイナーとして業務に従事していた。
原告は、平成16年3月に結婚式を挙げることになり、同年1月下旬頃被告会社にその旨報告するとともに、同年2月上旬被告Aに披露宴でのスピーチを依頼した。これに対し被告Aは、同年2月18日、原告に対し、原告が就労継続の意思を有しているにもかかわらず、せっかくの縁を大切にするようになどと退職を迫り、同年3月1日には、「せっかくの縁を大切にしなさい。もう少し楽な仕事をしたらどうか。人の思いやりが理解できないのか。他で仕事を探したらどうか」などと発言し、翌日には、原告を社長室に呼び出して怒鳴りつけた挙句、他の社員の面前で「君がこれ以上働きたいというなら、明日皆の前で君にどんな処遇をするか言ってやる」などと発言した。
被告Aは、同月7日の披露宴当日、そのスピーチにおいて、「今回良い縁があって結婚するという。なら思い切って家庭に入ってその中で自分の役割をしっかり行ったらどうかと思っている」「デザイナーなのだから能力を生かし切れ。これからは家庭を自分の思うようにデザインして下さい」「ご主人も働けと言っているから働くと言うのはどうか。家庭を作るということにもっと真剣に取り組んで欲しい。どうぞ良き家庭をデザインして下さい」などと発言した。更に被告Aは、同月15日、新婚旅行から帰った原告を社長室に呼び出し、夫やその親族について侮辱的な発言をし、原告が同月24日、退職強要の中止や時間外手当の支払いを求め、東京労働局長に対しあっせん申請を行った際も、一方的に誹謗中傷したり、親の心子知らずなどとの無反省な答弁に終始したりし、原告は同年5月25日、これらの嫌がらせに耐えかねて退職を余儀なくされた。
原告は、被告Aの退職強要によって精神的苦痛を受けたとして、慰謝料150万円、弁護士費用35万円を請求したほか、退職金の不足分及び時間外割増賃金の未払い分の支払いを請求した。 - 主文
- 1 被告らは、原告に対し、連帯して金22万円及びこれに対する平成16年6月29日から支払い済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告会社は、原告に対し、金11万5000円及びこれに対する平成16年6月17日から支払い済みまで年6パーセントの割合により金員を支払え。
3 被告会社は、原告に対し、金258万7544円及び別紙1(略)の時間外割増賃金欄記載の各金員に対するこれらにそれぞれ対応する同別紙(略)の起算日欄記載の日から平成16年6月28日までは年6パーセントの割合による金員を、同月29日から各支払い済みまでは年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告会社は、原告に対し、金258万7544円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払い済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。
7 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告Aは、原告の家庭生活と業務との両立を心配したものであって、原告の退職を勧奨し、強要した事実はないと主張するが、認定した事実に照らすと、被告Aが原告に対し、退職を勧奨していたこと自体は否定することができない。
ところで、退職勧奨は、基本的に使用者が社員に自発的な退職を促すものであり、それ自体を直ちに違法ということはできないが、当該退職勧奨に合理的な理由がなく、その手段・方法も社会通念上相当といえない場合など、使用者としての地位を利用し、実質的に社員に退職を強いるものであるならば、これは違法といわざるを得ない。被告Aらによる退職勧奨は、女性は婚姻後家庭に入るべきという考えによるものであり、それだけで退職を勧奨する理由になるものではないし、また、その手段・方法も、一貫して就労の継続を表明している原告に対し、その意思を直接間接に繰り返し確認し、他の社員の面前で叱責までした上、披露宴においても、原告の意に沿うものではないことを十分承知の上で自説を述べるなどし、結局、原告を退職に至らせているのであって、被告Aらのした退職勧奨は違法というほかない。したがって、被告らは、民法709条及び715条により、原告が被った損害を賠償する義務がある。
原告が、被告Aらの退職勧奨により、平成16年3月29日頃から出社することができなくなり、同年5月25日退職届の提出を余儀なくされたことのほか、当該退職勧奨の態様等一切の事情に照らすと、その受けた精神的苦痛を慰謝するには20万円をもってするのが相当であり、その弁護士費用については2万円とするのが相当である。
(退職金、時間外割増賃金及び付加金 略) - 適用法規・条文
- 民法709条、715条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1918号25頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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