判例データベース
愛知県美容院金銭貸与等事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 愛知県美容院金銭貸与等事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 − 平成2年(ワ)第429号
- 当事者
- 原告個人2名A,B
被告個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1992年12月16日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告(昭和21年10月生)は名古屋市で美容院を営業するほか、同市内に事務所を有する男性であり、原告B(昭和38年9月生)は、昭和61年3月から被告の経営する美容院に勤務していた女性であるが、生活費に困窮し、同年4月頃より、被告から金員を借り受けていた。
原告Bは、昭和62年春頃、一旦同美容院を退職することになったが、被告から未払いとなっている金額及び月8分の割合による利息の支払い義務があることを確認する趣旨の文書の作成を強く求められたことから、その文書を作成した。また原告Bは退職当時、割賦債務を負っていたところ、被告は原告Bの依頼でその一部を返済した。そこで原告Bは、昭和62年9月頃、被告に対しその立替分も含む55万円の貸し金につき、月8分の割合による利息の支払義務もあることを確認する趣旨の文書を作成し、被告に交付した。
被告は、昭和62年8月頃から原告Bに対し、金員の返済を迫るとともに、仮に返済できないときには暴力団等に取り立てさせる旨、また被告と情交関係を持つならば、1回5万円の割合で返済したことにする等と申し出、情交関係を求めたところ、原告Bはこれを畏怖し、被告の申し入れを受け入れた。そこで原告Bは、同年12月頃、市内のラブホテルにおいて被告と情交関係を持ち、その後数回情交関係を持った。その際、被告は原告Bに対し小遣い等として1万円程度与えたほか、昭和63年には数回にわたり原告Bに金員を交付した。
原告Bは、昭和63年7月原告Aと婚姻したが、被告はその後も原告Bとの関係を継続するとともに、原告Bに対し貸した金員及び利息の返済と美容院での勤務を求めたところ、原告Bは金員の返済はできなかったことから、平成元年4月、再度同美容院に勤務することになった。その後被告は、ホテルだけでなく、美容院や事務所等において頻繁に原告Bと情交関係を持ったほか、他の従業員がいないときなどは、その陰部に強いて触ったり、自らの陰部を強いて触らせる等の猥褻行為をした。被告は情交関係の後など原告Bに対し1万円程度を交付したこともあったが、情交関係によって免除されるのは金利分だけであり、元金は減少しないと述べることもあった。
その後も、原告Bと被告との情交関係、猥褻行為は継続していたが、原告Bは平成2年2月、原告Aに対し事情を打ち明け、美容院を退職した。被告は原告Bとの情交関係に際し、ポラロイドカメラ等で原告Bの全裸姿態等を撮影したことがあったが、それらを原告Bに返還していない。また、被告は、原告Bに交付した金額は、元利合計317万円余に達しており、これらは当然返還されるものと考えている。
原告A及び原告Bは、被告が原告Bとの間で行った情交関係、猥褻行為は、原告B及びその夫である原告Aに対する不法行為に当たるとして、原告Bに対し500万円、原告Aに対し300万円の慰謝料等を請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告Bに対し、金300万円、同Aに対し、金100万円及びこれらに対する平成2年2月22日から各完済まで年5分の割合による金員を各支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを2分して、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告は、借金の返済を迫られていた原告Bに対し、その債務の履行及び美容院の経営者の地位を利用した情交関係を求め、更に情交関係の反復と猥褻行為の反復を求めたものと解され、これは原告Bに対する不法行為を構成するものと解される。被告は、原告Bとの情交関係は、原告Bの承諾に基づくものであり、不法行為が成立しない旨主張するが、そもそも右承諾が存在したとしても、これにより不法行為が成立しないと解すべきか疑問があるのみならず、右任意の承諾の事実は認めるに足りないものである。もっとも、原告らは当時もその後も生活に困窮し、原告Bは被告から強いて情交関係を持たされながら、その後も金員の交付を受け、被告の経営する美容院に勤務している事実も認められ、他方原告らが警察等に相談に行った事実は認めるに足りないものであるが、そうであるからといって、直ちに原告Bが自発的に情交関係を承諾したものと推認することはできない。そして、原告Bは昭和63年7月原告Aと結婚したところ、その後も被告は原告Bとの情交関係、猥褻行為を継続したというものであり、少なくとも婚姻後の右行為は原告Aに対する関係でも不法行為を構成するものと解される。
被告は、本件につき過失相殺が成立すると主張するが、右事実はこれを認めるに足りない。もっとも確かに、情交関係等は被告単独ではできず、原告Bの「同意」がなければ成立しないのであるが、原告Bが自発的に情交関係を承諾したものではないのであり、単に被告との間に情交関係等があったからといって、当然に原告らに過失を認めることはできない。そして本件に現れた諸事情を考慮すると、原告らが被告の不法行為により被った苦痛に対する慰謝料は、原告Bにつき300万円、原告Aにつき100万円をもって相当とするものと解される。 - 適用法規・条文
- 民法709条、710条
- 収録文献(出典)
- 判例タイムズ811号175頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|