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県立医大アカ・ハラ控訴事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
県立医大アカ・ハラ控訴事件
事件番号
大阪高裁 − 平成12年(ネ)第3856号(甲事件)
当事者
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年01月29日
判決決定区分
変更(上告)
事件の概要
 甲事件控訴人(乙事件被控訴人)が設置する県立医科大学公衆衛生学教室において、その助手である乙事件控訴人(甲事件被控訴人)は、教授である乙事件被控訴人Aから、研究や休暇取得等において長年にわたる妨害を受けたとして、同教授及び県に対して550万円の損害賠償を請求した。
 第1審では、乙事件被控訴人Aの行為の一部に、乙事件控訴人に対する嫌がらせ行為があったとして、甲事件控訴人N県に対して、国家賠償法1条1項に基づき55万円の損害賠償を命じた。これに対し、甲事件被控訴人、甲事件控訴人N県の双方がこれを不服として控訴した。
主文
1 原判決のうち甲事件控訴人に関する部分を次の通り変更する。

一 甲事件控訴人は、甲事件被控訴人に対し、11万円及びこれに対する平成10年4月7日からから支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 甲事件被控訴人の甲事件控訴人に対するその余の請求を棄却する。

2 乙事件控訴人の控訴をいずれも棄却する。

3 甲事件控訴人と同被控訴人との間の訴訟費用は、1,2審を通じてこれを50分し、その1を甲事件控訴人の、その余を同被控訴人の負担とする。

 乙事件控訴人と乙事件被控訴人Aとの間の控訴費用は、乙事件控訴人の負担とする。
4 この判決の1一は仮に執行することができる。
判決要旨
1 被控訴人Aの控訴人に対する嫌がらせ行為 

 本件は公務員たる地位を有する県立大学の教室員に対し、休暇届、出張届、職務専念義務等の厳格な励行を求める教室主任と、それに従うのをよしとしない教室員との継続的な対立の事例である。しかしながら、それが控訴人と被控訴人Aの個人的な確執に由来するものであっても、被控訴人Aが教室管理者として権力的な立場にあるものである以上、場合によっては被控訴人Aの行為が違法な公権力の行使と評価される場合があり得るし、また場合によっては被控訴人Aの個人的な不法行為責任が生じる余地もあるのは明らかである。

 控訴人は、被控訴人Aが平成7年6月16日に、第二研究室の控訴人の私物を移動させたことが違法であると主張するが、既に平成6年3月の教室会議で中国人の留学生のスペースを第二研究室の前室にすることが決定され、控訴人も了承していたものであること、机の下などには控訴人の私物が置かれた状態になっていたことから、留学生のスペースを確保するため控訴人の私物を移動させたことは、その経緯を合わせ考慮すれば、控訴人の不在時に行ったことの当否は別として、これを違法な嫌がらせとまではいうことができない。

 講座研究費の配分については、原則として当該教室の自主的な決定に委ねられていると解され、配分方法は特に合理性を欠くものでない限り、第一次的には当該教室の決定を尊重するべきである。出勤状況に応じて研究費を配分することが、単なる頭割り配分に比して合理性が劣るものとは考えられず、また配分の決定は教室会議において、欠席した控訴人を除く全員の合意で決定され、控訴人もその決定に異議を述べた形跡がないこと、この決定は結果的には実施されなかったことなどの事情を考慮すると、研究費を出勤状況に応じて配分することを決定したことが、控訴人に対する嫌がらせであるとは認められない。

 他大学の公募書類の開示は被控訴人Aの公務であるから、控訴人の不在時に応募書類を机上に置いたり、応募を薦めるメモを添えたりしたことをもってこれが違法となるとは解せられない。控訴人は、自らの専門でない、資格を有しない等からこれを嫌がらせであると主張するが、控訴人の専門外という点については直ちに認め難いし,情報の開示自体はむしろ教室主任の責務であり、現実に応募するかしないかについては全面的に教室員の自由に委ねられており、被控訴人Aが控訴人に限って執拗に応募を薦めるなどした事情も認められないから、これを違法とまで認めることはできない。

 被控訴人Aが控訴人のN女子短大講師の兼業承認申請に押印しなかったことについて、控訴人は兼業時間が変転したのは兼業時間数の減少が原因であることを一応説明していることが認められ、他方被控訴人Aは「リアルスケジュール」の持参にこだわって、控訴人の説明を受け付けなかったものと認められる。「リアルスケジュール」とは新学期が始まる直前にN女子短大において作成される行事予定表であり、3月の時点では未だ作成されていないものであると認められるから、そのような書類の提出にこだわって兼業承認申請への押印を拒否するのは合理性を欠くものであることが明らかであり、嫌がらせの要素があると推認できる。

2 被控訴人Aの不法行為責任

被控訴人Aが公権力の行使として行った行為に基づく責任は、公共団体である被控訴人N県が賠償責任を負担し、被控訴人A個人において責任を負担するものではないと解するのが相当である。

3 被控訴人N県の国家賠償法上の責任及び職場環境配慮義務違反

 被控訴人Aが控訴人のN女子短大における兼業承認申請への押印を拒否したことは、同被控訴人の嫌がらせと見るのが相当であり、このことによって、控訴人には同短大における平成10年4月の第1回講義を休講にせざるを得なかったという実質的な影響もあったと認められる。兼業承認は公権力を行使する被控訴人Aの職務上の行為というべきであり、したがって同被控訴人の当該行為は国家賠償法上の違法行為である。

 被控訴人Aによる控訴人に対する違法行為や嫌がらせ的要素のある行為が存在し、その背景に控訴人と被控訴人Aの間の軋轢があったからといって、直ちに被控訴人N県においてその職場環境の整備のため、教室に介入する緊急の必要があるとか、控訴人の学生に対する教育・指導、学問・研究に重大な支障が発生したというような事実は認められない。以上の通り、本件においては、被控訴人N県において職場環境に配慮しまたは違法行為を是正すべき義務があったとするための前提条件を欠くというほかないから、控訴人の主張は失当である。

4 損害
 控訴人と被控訴人Aとの対立の原因は、控訴人においても、嫌がらせ行為を被控訴人Aに仕掛けたり、また教室会議で決まり、公務員として当然に要求される欠勤や休暇についての手続きを、研究方法に関する独自の考え方に固執して、これを遵守しなかったところにも存在するというべきであり、これら被控訴人Aの兼業申請押印拒否の経過及び影響、これに至るまでの控訴人の対応等本件における諸般の事情を考慮し、控訴人の精神的苦痛に対する賠償としては10万円をもって相当と認める。また弁護士費用としては、賠償額に照らし、1万円が相当と認める。
適用法規・条文
国家賠償法1条1項
収録文献(出典)
判例タイムズ1098号234頁
その他特記事項
本件は上告された。